第1章 1-14 / データの記述と要約

時系列データ② — トレンド・移動平均・自己相関

1. 時系列の3つの変動成分

時系列データ $x_t$ の動きは、おおむね次の3つの成分の重ね合わせと考えると整理しやすくなります。

たとえば、ある会社の四半期売上を考えます。「年々じわじわ伸びている」のがトレンド、「毎年Q4(年末商戦)に跳ねる」のが季節変動、「その月だけ天災で落ち込んだ」のが不規則変動です。これら3つを分けて見れば、表面の上下に惑わされず本質をつかめます。

この記事で扱う四半期売上データ(3年・12期分)を、まず表にしておきます。Q4ごとに高く、年を追うごとに底上げされている、季節変動+上昇トレンドのデータです。

Q1Q2Q3Q4
1年目10141218
2年目12161420
3年目14181622
10 20 1年目 2年目 3年目 売上

原系列 ─ Q4ごとに山ができる季節変動と、右肩上がりのトレンドが混在

2. 移動平均で平滑化する

季節変動と不規則変動を取り除いてトレンドだけを取り出すには、移動平均が使えます。連続する数期の平均をとって、データのギザギザを「ならす(平滑化する)」操作です。

単純移動平均

奇数 $2m+1$ 期の単純移動平均は、その時点を中心に前後 $m$ 期を平均します。 $$\hat{x}_t = \frac{1}{2m+1}\sum_{j=-m}^{m} x_{t+j}$$ たとえば3期移動平均なら $\hat{x}_t = \dfrac{x_{t-1}+x_t+x_{t+1}}{3}$ です。移動平均の期数を季節の周期に合わせるのがコツです。四半期データの季節周期は4なので、4期移動平均をとると1年分をならすことになり、季節変動がきれいに消えます。

中心化移動平均(周期が偶数のとき)

ところが周期4は偶数。4期の平均は2.5番目と3.5番目の「間」に対応してしまい、もとの時点に乗りません。そこで、ずれた4期移動平均をさらに隣どうしで2期平均し、整数の時点に合わせます。これを中心化移動平均と呼びます。重みで書くと次の通りです。

FORMULA — 試験に出る式 周期4の中心化移動平均(2×4移動平均): $$\hat{x}_t = \frac{1}{8}\,x_{t-2} + \frac{1}{4}\,x_{t-1} + \frac{1}{4}\,x_{t} + \frac{1}{4}\,x_{t+1} + \frac{1}{8}\,x_{t+2}$$

両端だけ重み $\tfrac{1}{8}$、中央3期は $\tfrac{1}{4}$。重みの合計はちょうど1です。

3期目(1年目Q3、値12)の中心化移動平均を計算してみましょう。前後2期は $x=10,14,12,18,12$。 $$\hat{x}_3 = \tfrac{1}{8}(10) + \tfrac{1}{4}(14) + \tfrac{1}{4}(12) + \tfrac{1}{4}(18) + \tfrac{1}{8}(12) = 1.25 + 3.5 + 3 + 4.5 + 1.5 = 13.75$$ 同じ要領で全期を計算すると、$13.75,\ 14.25,\ 14.75,\ 15.25,\ 15.75,\ 16.25,\ 16.75,\ 17.25$(3期目〜10期目)と、季節の山谷が消えてきれいな右肩上がりの直線になります。これが取り出されたトレンドです。

10 20 1年目 2年目 3年目 売上

薄い線が原系列、濃い線が中心化移動平均。季節の波が消え、トレンド(直線的上昇)が浮かび上がる

移動平均は、いわば「ならし」です。期数を季節の周期に合わせると、繰り返す波がぴったり打ち消し合って、長期の流れだけが残ります。株価のチャートでよく見る「移動平均線」も、まさにこれです。

移動平均の期数は季節周期に合わせるのが基本で、月次データ(周期12)なら12期、四半期(周期4)なら4期です。周期が偶数のときは中心化移動平均で時点を合わせます。

平滑化すると端のデータが計算できず短くなる、という副作用も覚えておきましょう。

3. 自己相関 — 何期前と似ているか

季節性(周期)を数値で測りたいときに使うのが自己相関です。アイデアはシンプルで、時系列を自分自身の $k$ 期前のコピーとどれくらい相関するかを見ます。相関係数の相手を「自分の過去」にしただけ、と思ってください。$k$ をラグ(遅れ)と呼びます。

FORMULA — 試験に出る式 ラグ $k$ の自己相関係数 $r_k$ は $$r_k = \frac{\displaystyle\sum_{t=k+1}^{n} (x_t - \bar{x})(x_{t-k} - \bar{x})}{\displaystyle\sum_{t=1}^{n} (x_t - \bar{x})^2}$$

ここで $\bar{x}$ は系列全体の平均です。分子は「現在のずれ」と「$k$ 期前のずれ」の積の和、分母は全体のばらつき。$r_0 = 1$ で、$-1 \le r_k \le 1$ の範囲に入ります。

$r_k$ が大きな正の値なら「$k$ 期前と似た動きをしている」、つまりその $k$ が周期の候補です。季節変動があると、周期にあたるラグで $r_k$ が大きくなります。

さきほどの四半期売上12期分(平均 $\bar{x}=15.5$)で自己相関を計算すると、次のようになります。

ラグ $k$123456
$r_k$−0.140.48−0.300.51−0.280.11

$r_4 = 0.51$ と、ラグ4で自己相関が最大になっています。これは「4期(=1年)前と最もよく似ている」ことを意味し、データに周期4の季節変動があることを数字が裏づけています。

ラグ2が正、ラグ1・3が負になっているのも、Q2・Q4で高くQ1・Q3で低い、という規則的な上下を反映しています。

4. コレログラムで周期を読む

自己相関係数 $r_k$ を、横軸にラグ $k$、縦軸に $r_k$ をとって棒グラフにしたものをコレログラム(自己相関図)と呼びます。どのラグで相関が高いかが一目でわかる、時系列分析の定番グラフです。

1.0 0.5 0 -0.5 1 2 3 4 5 6 ラグ k

コレログラム ─ ラグ4で自己相関が突出。周期4(1年)の季節変動の証拠

コレログラムの読み方のポイントを整理します。

自己相関は「自分の過去との相関」。コレログラムは、いわば「周期の探知機」です。どのラグに山が立つかを見れば、データに潜む周期が一目でわかります。

移動平均が「ならしてトレンドを見る」道具なら、コレログラムは「繰り返しを見つける」道具。2つをセットで覚えると、時系列の見方がぐっとプロっぽくなります。

CHECK TEST — 確認テスト

この章の理解度チェック

答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。

Q1時系列データを構成する3つの変動成分を挙げてください。
トレンド(傾向変動)・季節変動(周期変動)・不規則変動(偶然変動)の3つです。
Q2四半期データ(周期4)で移動平均をとるとき、なぜ単純な4期移動平均ではなく中心化移動平均が必要なのでしょうか?
周期4は偶数のため、4期の平均は2.5番目と3.5番目の「間」に対応してしまい、整数の時点に乗らないからです。ずれた4期移動平均をさらに隣どうしで2期平均し、時点を合わせます。
Q3本文の3期目(値12、前後2期が $x=10,14,12,18,12$)について、周期4の中心化移動平均 $\hat{x}_3$ を計算してください。
$\hat{x}_3=\tfrac18(10)+\tfrac14(14)+\tfrac14(12)+\tfrac14(18)+\tfrac18(12)=1.25+3.5+3+4.5+1.5=13.75$ です。
Q4自己相関係数のラグ $k$ とは何を意味し、$r_k$ が大きな正の値になるとどう解釈できるでしょうか?
ラグ $k$ は「$k$ 期前」を表します。$r_k$ が大きな正の値なら、$k$ 期前と似た動きをしている、つまりその $k$ が周期の候補であることを意味します。
Q5本文の四半期売上データのコレログラムでは、どのラグで自己相関が最大になり、それは何を意味しますか?
ラグ4で $r_4=0.51$ と最大になります。4期(=1年)前と最もよく似ていることを意味し、周期4の季節変動があることを裏づけています。

これで第1章「データの記述と要約」は完了です。次章からは確率の世界に入ります。最初の一歩は 2-1 事象と確率。記述統計でつかんだデータの感覚を土台に、いよいよ「偶然を数で扱う」推論の準備を始めましょう。

さえちゃん
さえ

第1章、ぜんぶ走り切ったね、すごい! 移動平均と自己相関は手を動かすと一気に腑に落ちるよ。今日の四半期データで、中心化移動平均を1つだけでも自分で計算してみてね。次は確率だよ、楽しみにしてて!

HANDWRITING — 紙に書いてインプットしよう!

このページに出てきた重要キーワードです。ページを閉じる前に、声に出しながら紙に手で書いてみてください。手を動かすと、読むだけの何倍も速く記憶に定着します。

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