時系列データ① — 成長率と幾何平均
1. 前年比と成長率
時系列データを数値で要約する基本が成長率(変化率)です。前の時点 $x_{t-1}$ から今の時点 $x_t$ にかけて、どれだけ増えた(減った)かを割合で表します。
これに100を掛けると「前年比 $+\,r_t \times 100$ %」と表現できます。
右側の $\dfrac{x_t}{x_{t-1}}$ は前年比(倍率)です。たとえば $x_{t-1}=100$、$x_t=110$ なら、前年比は $110/100 = 1.1$ 倍、成長率は $1.1 - 1 = 0.1$、すなわち+10%です。倍率=1+成長率という関係を、このあと何度も使います。
対数を使った見方
成長を扱うとき、対数は強力な道具になります。$\log$ をとると掛け算が足し算に変わるので、連続した期間の成長を足し算でつなげられるからです。
倍率 $1+r_t$ の対数 $\log(1+r_t)$ を対数成長率と呼び、$r_t$ が小さいときは $\log(1+r_t) \approx r_t$ と近似できます(自然対数の場合)。
この近似が成り立つのは、$r_t$ が0に近いところで $\log(1+r_t)$ の接線がちょうど $r_t$ になるからです。たとえば $r_t=0.03$ なら $\log(1.03) \approx 0.0296$ で、ほぼ3%。
だから「前年比+3%」と「対数成長率3%」は、小さな変化なら実用上ほぼ同じ、というわけです。
2. 指数化(基準=100)
スケールの違うデータを比べるとき便利なのが指数化です。ある基準時点の値を100とし、ほかの時点をそれに対する相対値で表します。基準時点の値を $x_0$ とするとき、第 $t$ 期の指数は $$I_t = \frac{x_t}{x_0} \times 100$$ $I_t = 120$ なら基準から20%増、$I_t = 95$ なら5%減、とすぐ読めます。
ある会社の売上(万円)を、2020年を基準に指数化してみましょう。
| 年 | 売上(万円) | 指数(2020=100) | 前年比成長率 |
|---|---|---|---|
| 2020 | 500 | 100 | — |
| 2021 | 600 | 120 | +20% |
| 2022 | 720 | 144 | +20% |
| 2023 | 864 | 172.8 | +20% |
毎年きっちり20%ずつ成長したケースです。指数が $100 \to 120 \to 144 \to 172.8$ と、足し算ではなく掛け算($\times 1.2$ ずつ)で増えている点に注目してください。これが成長の本質で、次の幾何平均につながります。
毎年20%成長の指数 ─ 一定割合で増えるとカーブが上向きに反る
3. なぜ算術平均ではダメなのか
いよいよ本題です。複数年の成長率を1つにまとめた「平均成長率」を考えます。まず、普通の平均(算術平均)でやるとどうなるかを見てみましょう。
算術平均が破綻する例
ある投資の元本100万円が、1年目に2倍(+100%)、2年目に半分(−50%)になったとします。最終的にいくらでしょうか。$100 \times 2 \times 0.5 = 100$ 万円。元本のまま、増えても減ってもいません。つまり本当の平均成長率は0%のはずです。ところが成長率 $+100\%$ と $-50\%$ を算術平均すると $$\frac{1.00 + (-0.50)}{2} = 0.25 = +25\%$$ 「年平均+25%で成長」という、まったく事実と合わない答えが出てしまいます。
なぜズレるのか。成長は足し算ではなく掛け算で積み上がるからです。2年間の変化は「$\times 2$ してから $\times 0.5$」、つまり倍率の掛け算 $2 \times 0.5 = 1$ で決まります。足し算を前提にした算術平均は、この掛け算の構造を無視してしまうのです。
4. 幾何平均で平均成長率を出す
掛け算で積み上がるものの「平均」は、幾何平均で求めます。倍率 $1+r_1,\,1+r_2,\,\dots,\,1+r_n$ を掛け合わせて $n$ 乗根をとり、最後に1を引きます。
対象が掛け算で積み上がるなら、平均も掛け算で考える。これが幾何平均の考え方です。
なぜこれが正しいのか
幾何平均の気持ちは「毎年これと同じ倍率で増えたとしたら、ちょうど同じ最終値になる一定の倍率」を探すことです。一定倍率 $1+\bar{r}$ を $n$ 回掛けた結果が、実際の倍率の積に等しい、と要求します。式で追うと次のようになります。 $$ \begin{aligned} (1+\bar{r})^{n} &= (1+r_1)(1+r_2)\cdots(1+r_n) &&\text{(同じ倍率 } n \text{ 回 = 実際の積)}\\[2pt] &= \prod_{i=1}^{n}(1+r_i) &&\text{(右辺を積の記号で書く)}\\[2pt] 1+\bar{r} &= \left(\prod_{i=1}^{n}(1+r_i)\right)^{1/n} &&\text{(両辺を } 1/n \text{ 乗)}\\[2pt] \bar{r} &= \left(\prod_{i=1}^{n}(1+r_i)\right)^{1/n} - 1 &&\text{(1 を引いて成長率に戻す)} \end{aligned} $$ これが、複利で増えるものの「ならした平均成長率」です。算術平均が「足してならす」のに対し、幾何平均は「掛けてならす」。対象が掛け算で積み上がるなら、平均も掛け算で考えるのが筋なのです。
さきほどの例で確かめる
さきほどの「+100% → −50%」を幾何平均で計算し直してみましょう。倍率は $2$ と $0.5$、$n=2$ なので $$\bar{r} = (2 \times 0.5)^{1/2} - 1 = 1^{1/2} - 1 = 0 = 0\%$$ ちゃんと「平均成長率0%」が出ました。最終値が元本と同じだったことと、ぴったり一致します。
§2 の会社は、売上が3年で $500 \to 864$ 万円になりました。平均成長率は $$\bar{r} = \left(\frac{864}{500}\right)^{1/3} - 1 = (1.728)^{1/3} - 1 = 1.2 - 1 = 0.20 = 20\%$$ 毎年20%成長だったので当然ですが、途中の値を知らなくても、始点と終点と年数だけで平均成長率が出せるのが幾何平均の便利なところです。検算すると $500 \times 1.2^3 = 864$ で、確かに合っています。
「足して積み上がるなら算術平均、掛けて積み上がるなら幾何平均」──この一言で覚えておきましょう。成長率・収益率・倍率のように掛け算で積み上がる量の平均は幾何平均を使います。
算術平均は必ず幾何平均以上になり(相加・相乗平均の関係)、成長率に使うと過大評価します。「年平均リターン」をうたう広告には、この罠が潜んでいることがあります。
5. 結論と使いどころ
幾何平均は、対数を通すとさらにすっきり理解できます。$\prod(1+r_i)$ の対数は $\sum \log(1+r_i)$ なので、幾何平均の対数は対数成長率の算術平均に等しくなります。 $$\log(1+\bar{r}) = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\log(1+r_i)$$ 「対数の世界では、幾何平均はただの算術平均」と言いかえられます。掛け算を足し算に変える対数の威力が、ここでも効いています。
実務では、株式の年平均リターン、GDPや人口の年平均成長率(CAGR:年平均成長率)、物価の平均上昇率など、「複数期間にわたる成長の平均」を出す場面のほぼすべてで幾何平均が使われます。試験でも「平均成長率を求めよ」と来たら、まず幾何平均を疑うのが安全です。
この章の理解度チェック
答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。
Q1前年の値 $x_{t-1}=200$、今年の値 $x_t=230$ のとき、成長率 $r_t$ を求めてください。
Q2ある投資が1年目+100%、2年目−50%だったとき、算術平均と幾何平均のそれぞれで平均成長率を求めてください。どちらが正しいでしょうか?
Q3なぜ成長率の平均には算術平均ではなく幾何平均を使うべきなのでしょうか?
Q4売上が5年間で $x_0=300$ から $x_5=600$ になりました。平均成長率 $\bar{r}$ を、始点と終点だけから求める式を書いてください。
Q5幾何平均の対数と、対数成長率の算術平均の関係を式で答えてください。
次回 1-14 時系列データ② では、時系列の変動成分(トレンド・季節・不規則)を分け、移動平均で平滑化し、自己相関とコレログラムで周期性を測る方法を学びます。
幾何平均、しっかり追えたね! 「+100%と−50%の平均は0%」を自分の手で計算できたら合格。成長の話は一生ついて回るから、ここはぜひ体に染み込ませてね。次は移動平均だよ!
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