第1章 1-11 / データの記述と要約

回帰直線

1. 回帰直線とは ─ 予測のための1本の直線

2つの量的変数があるとき、片方($x$)からもう片方($y$)を予測したいことがあります。たとえば勉強時間から点数を、気温からアイスの売上を見積もる、といった具合です。このとき、予測のもとになる $x$ を説明変数(独立変数)、予測したい $y$ を目的変数(従属変数)と呼びます。

散布図の点に対して、スーッと1本、もっともよくフィットする直線を引いたものが回帰直線です。直線が表す $y$ は「実際の値」ではなく「直線による予測値」なので、ハットをつけて $\hat{y}$(ワイ・ハット)と書きます。

式で書けば $\hat{y} = a + bx$。$b$ は直線の傾き(回帰係数)、$a$ は切片です。傾き $b$ は「$x$ が $1$ 増えると $y$ が平均してどれだけ変わるか」を表します。

2. 最小二乗法 ─ 直線を選ぶルール(結論のみ)

直線はいくらでも引けます。そのなかから1本を選ぶには基準が要ります。回帰でいちばんよく使われる基準が最小二乗法(さいしょうにじょうほう、least squares method)です。

残差を二乗して合計する

各データについて、実際の $y_i$ と直線の予測値 $\hat{y}_i$ の差を残差 $e_i = y_i - \hat{y}_i$ といいます。点が直線より上なら残差はプラス、下ならマイナス。残差をそのまま足すと打ち消し合って $0$ になってしまうので、残差を二乗してから合計します。

この「残差二乗和」をできるだけ小さくする $a,\,b$ を選ぶ──これが最小二乗法です。直線から大きく外れた点ほど二乗で重いペナルティを受けるので、結果としてみんなにそこそこ近い直線が選ばれます。

つまり残差二乗和 $\displaystyle\sum_{i=1}^{n}(y_i-\hat{y}_i)^2$ を最小にする $a,\,b$ を求めるのが最小二乗法の定義です。この最小化を実際に解く(微分して連立方程式=正規方程式を立てる)手続きは、本講座の山場として 第5章 5-1 で導出します。

本ページではその結論の公式だけを使います。

3. 結論の公式 ─ 傾きと切片

最小二乗法を解くと、傾き $b$ と切片 $a$ は次のように、前回までに学んだ共分散・分散・相関係数・標準偏差だけで書けます。

FORMULA — 試験に出る式 傾き(回帰係数): $$b = \frac{s_{xy}}{s_x^{2}} = r\,\frac{s_y}{s_x}$$ 切片: $$a = \bar{y} - b\,\bar{x}$$

ここで $s_{xy}$ は共分散、$s_x^2$ は $x$ の分散、$r$ は相関係数、$s_x,\,s_y$ は標準偏差、$\bar{x},\,\bar{y}$ は平均です(いずれも $n-1$ で割る定義で計算してかまいません。傾きでは約分されて消えます)。

傾きの2つの顔

傾き $b$ には2通りの書き方があります。$b=\dfrac{s_{xy}}{s_x^2}$ は「共分散を $x$ の分散で割る」形。一方、$s_{xy}=r\,s_x s_y$ を代入すると $b=\dfrac{r\,s_x s_y}{s_x^2}=r\dfrac{s_y}{s_x}$ となり、「相関係数 × 標準偏差の比」の形になります。

どちらも同じ値で、手元にあるデータに合わせて使い分けられます。

この形からわかる大事なことが1つ。傾き $b$ の符号は、共分散(=相関係数)の符号と同じです。正の相関なら右上がり、負の相関なら右下がりの直線になる、というわけです。

直線は必ず $(\bar{x},\,\bar{y})$ を通る

切片の式 $a=\bar{y}-b\bar{x}$ を移項すると $\bar{y}=a+b\bar{x}$。これは「$x=\bar{x}$ を代入すると $\hat{y}=\bar{y}$ になる」という意味です。

最小二乗法による回帰直線は、必ずデータの重心を通ります($(\bar{x},\,\bar{y})$ の点です)。だから、傾き $b$ さえ求めれば、あとは重心にピンを刺してクルッと1本まわす感じで直線が決まります。切片 $a$ は、その「重心を通す」ための高さ調整の値だと考えるとスッキリします。

4. 数値例 ─ $a,\,b$ を計算する

前回 1-9 と同じ、5人の「勉強時間 $x$」と「点数 $y$」のデータを使います。すでに計算した値を再掲します。

生徒ABCDE平均
$x$(時間)12345$\bar{x}=3$
$y$(点)3555607580$\bar{y}=61$

1-9 で求めた値は、共分散 $s_{xy}=27.5$、$x$ の分散 $s_x^2=2.5$、相関係数 $r\approx 0.976$ でした。これらを公式に入れるだけです。

まず傾き $b$ です。共分散を $x$ の分散で割ります。 $$b = \frac{s_{xy}}{s_x^{2}} = \frac{27.5}{2.5} = 11$$ 「相関係数 × 標準偏差の比」でも確かめてみましょう。$s_x=\sqrt{2.5}\approx 1.581$、$s_y=\sqrt{317.5}\approx 17.819$ なので $$b = r\,\frac{s_y}{s_x} = 0.976 \times \frac{17.819}{1.581} \approx 0.976 \times 11.27 \approx 11$$ どちらでも $b=11$。$x$ が $1$ 時間増えると、点数は平均して $11$ 点上がる、という意味です。

次に切片 $a$ です。重心 $(\bar{x},\bar{y})=(3,\,61)$ を通すように切片を決めます。 $$a = \bar{y} - b\,\bar{x} = 61 - 11 \times 3 = 61 - 33 = 28$$ よって回帰直線は $$\hat{y} = 28 + 11x$$ 試しに $x=\bar{x}=3$ を入れると $\hat{y}=28+11\times 3=61=\bar{y}$。ちゃんと重心を通っていますね。また $x=6$(6時間勉強)と予測すると $\hat{y}=28+11\times 6=94$ 点。観測していない値の見積もりにも使えます。

この回帰直線を散布図に重ねると、次のようになります。5つの点のちょうど真ん中を貫く1本です。

勉強時間 x(時間)→ 点数 y(点)→ 1 2 3 4 5 重心 (x̄, ȳ) ŷ = 28 + 11x

散布図と回帰直線 ─ 直線 $\hat{y}=28+11x$ は重心 $(3,\,61)$ を通る

5. 使うときの注意

回帰直線は便利ですが、使い方に注意点があります。前回 1-10 で学んだ相関の注意点が、そのまま回帰にも当てはまります。

回帰直線の傾き $b=\dfrac{s_{xy}}{s_x^2}=r\dfrac{s_y}{s_x}$ は、これまで積み上げてきた共分散・相関係数・標準偏差の総決算です。

第1章で学んだ記述統計の道具が、ここで「予測」という新しい目的のために1つにつながりました。残差二乗和を最小化する正式な導出は、第5章 5-1 で必ず回収します。

CHECK TEST — 確認テスト

この章の理解度チェック

答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。

Q1最小二乗法とは、何を最小にする $a,\,b$ を選ぶ方法でしょうか?
残差二乗和 $\sum_{i=1}^{n}(y_i-\hat{y}_i)^2$ を最小にする方法です。残差をそのまま足すと打ち消し合って0になるため、二乗してから合計します。
Q2回帰直線の傾き $b$ を、共分散・分散・相関係数・標準偏差を使って2通りの式で書いてください。
$b=\dfrac{s_{xy}}{s_x^2}$(共分散÷xの分散)と $b=r\dfrac{s_y}{s_x}$(相関係数×標準偏差の比)です。$s_{xy}=rs_xs_y$ を代入すれば互いに導けます。
Q3回帰直線は必ずどの点を通るでしょうか?
データの重心 $(\bar{x},\,\bar{y})$ です。切片 $a=\bar{y}-b\bar{x}$ を移項すると $\bar{y}=a+b\bar{x}$ となり、$x=\bar{x}$ のとき $\hat{y}=\bar{y}$ になることからわかります。
Q4本文の勉強時間と点数の例($\bar{x}=3,\ \bar{y}=61,\ s_{xy}=27.5,\ s_x^2=2.5$)で、傾き $b$ と切片 $a$ を計算してください。
$b=27.5\div2.5=11$、$a=61-11\times3=28$。よって回帰直線は $\hat{y}=28+11x$ です。
Q5回帰直線を使ううえでの注意点を2つ挙げてください。
例:データの範囲を大きく外れた外挿は慎重に行うこと、回帰は因果を保証しないこと(他に「x,yの役割は非対称」「直線の適合は散布図で確認」も可)。

これで第1章の2変数パートはひと区切り。次回 1-12 クロス集計表 では、質的変数どうしの関係を表にまとめる方法に移ります。

量的データの散布図・相関・回帰に対して、質的データはクロス集計で関係を読む、という対比で押さえましょう。

さえちゃん
さえ

$b=11,\ a=28$、自分の手でも出せたかな? 共分散を分散で割って傾き、重心を通すように切片。第1章で集めた道具が全部つながった瞬間だよ。証明が気になる人は、第5章 5-1で待ってるね!

HANDWRITING — 紙に書いてインプットしよう!

このページに出てきた重要キーワードです。ページを閉じる前に、声に出しながら紙に手で書いてみてください。手を動かすと、読むだけの何倍も速く記憶に定着します。

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