第1章 1-10 / データの記述と要約

相関の注意点

1. 相関は因果ではない

相関係数って数字が出ると、つい「関係あり!」「だから原因だ!」と言いたくなるものですが、そこが落とし穴です。いちばん大事な原則から確認しましょう。

相関があっても、片方がもう片方の原因とは限らない。「$x$ と $y$ がいっしょに動く」ことと「$x$ が $y$ を引き起こす」ことは、まったく別の話です。

$x$ と $y$ に相関が見られたとき、その背後には少なくとも4つの可能性があります。

相関係数 $r$ は、このどれなのかを区別できません。$r$ が教えてくれるのは「いっしょに動いている」という事実だけ。因果を語るには、観察だけでなく実験デザインなどの工夫が必要です(第3章 3-2 で扱います)。

2. みかけの相関と交絡

上の3番目、第三の変数が両方の原因になっているケースを、みかけの相関(擬似相関、見せかけの相関)といいます。そして、こっそり背後にいてグラフをゆがめる第三の変数 $z$ を交絡変数(こうらくへんすう、confounder)と呼びます。

定番の例で見てみましょう。ある町のデータで、「アイスの売上 $x$」と「水難事故の件数 $y$」に強い正の相関(たとえば $r=0.8$)が見られました。アイスが事故を引き起こしているのでしょうか? もちろん違います。

背後には気温 $z$ がいます。気温が高いとアイスも売れるし、海やプールに行く人が増えて事故も増える。$z$ が $x$ と $y$ の両方を押し上げているので、$x$ と $y$ がいっしょに動いて見えるだけなのです。

気温 z アイス売上 x 水難事故 y みかけの相関

交絡 ─ 気温 $z$ が $x$ と $y$ の両方の原因。$x$–$y$ の相関は「みかけ」(破線)

3. 偏相関係数 ─ 第三の変数の影響を取り除く

では、気温 $z$ の影響を取り除いたうえで、アイス売上 $x$ と水難事故 $y$ に本当の関係が残るか調べたい。このときに使うのが偏相関係数(へんそうかんけいすう、partial correlation)$r_{xy\cdot z}$ です。「$z$ をそろえたとき(一定にしたとき)の $x$ と $y$ の相関」と読みます。

FORMULA — 試験に出る式 $$r_{xy\cdot z} = \frac{r_{xy} - r_{xz}\, r_{yz}}{\sqrt{1 - r_{xz}^{2}}\ \sqrt{1 - r_{yz}^{2}}}$$

$x,\,y,\,z$ それぞれの間の相関係数 $r_{xy},\,r_{xz},\,r_{yz}$ を使います。分子で「$z$ を経由して説明できる分 $r_{xz}r_{yz}$」を $r_{xy}$ から引いているのがポイントです。

偏相関係数は「気温を一定にしたらどうなる?」を計算で再現する道具です。さきほどのデータで、相関係数が次のように出たとします。 $$r_{xy}=0.80,\qquad r_{xz}=0.90,\qquad r_{yz}=0.85$$ 気温 $z$ の影響を除いた偏相関係数を計算してみましょう。 $$r_{xy\cdot z} = \frac{0.80 - 0.90 \times 0.85}{\sqrt{1-0.90^2}\ \sqrt{1-0.85^2}} = \frac{0.80 - 0.765}{\sqrt{0.19}\ \sqrt{0.2775}}$$ $$= \frac{0.035}{0.4359 \times 0.5268} \approx \frac{0.035}{0.2296} \approx 0.15$$

もとは $r_{xy}=0.80$ という強い相関でしたが、気温をそろえると $r_{xy\cdot z}\approx 0.15$ まで激減しました。つまり $x$–$y$ の見かけの強い相関は、ほとんどが気温という交絡変数のしわざだった、と数値で示せたわけです。

$0.80$ が $0.15$ まで落ちたことで、「あ、これ気温のせいだったんだ」とわかる──偏相関係数は擬似相関の名探偵というわけです。

4. 相関行列 ─ たくさんの変数を一望する

変数が3つ以上あるときは、すべてのペアの相関係数を表にまとめると見通しがよくなります。これを相関行列(そうかんぎょうれつ、correlation matrix)といいます。$(i,\,j)$ 成分に「変数 $i$ と変数 $j$ の相関係数」を並べた正方形の表です。

$x$(アイス売上)$y$(水難事故)$z$(気温)
$x$$1$$0.80$$0.90$
$y$$0.80$$1$$0.85$
$z$$0.90$$0.85$$1$

相関行列には、覚えておくと得な性質が2つあります。対角成分は必ず1で、対角線をはさんで対称という点です(自分自身との相関は完全一致、$x$ と $y$ の相関も $y$ と $x$ の相関も同じ値)。表を読むときは、対角線より上(または下)の半分だけ見れば十分です。

この表からも、$z$ が $x$・$y$ の両方と強く相関している($0.90,\,0.85$)ことが一目でわかります。交絡変数があやしいときは、まず相関行列で「両方と仲のいい変数」を探すのが手早いやり方です。

5. 層別散布図とシンプソンのパラドックス

第三の変数の影響を見抜くもう1つの方法が、グループごとに色分けして散布図を描く層別散布図(そうべつさんぷず)です。全体をひとまとめにすると見えない構造が、層(グループ)に分けると浮かび上がることがあります。

ときには、全体で見たときと層別に見たときで相関の向きが逆転することすらあります。これがシンプソンのパラドックスです。

変数 x → 変数 y → 全体は右上がり

シンプソンのパラドックス ─ 各グループ内は右下がり(負)なのに、まとめると右上がり(正)に見える

図の青いグループと赤いグループは、どちらの中でも $x$ が増えると $y$ は減る(負の相関)です。ところが2つを1つの散布図にまとめると、グループ全体の位置関係のせいで「右上がり(正の相関)」に見えてしまいます。

グループ(層)という第三の変数を無視すると、結論が真逆になる──これがシンプソンのパラドックスの怖さです。

6. 外れ値と非線形 ─ 散布図でしか気づけない

外れ値の影響

相関係数は平均と標準偏差を使って計算されるので、外れ値(極端に離れた1点)に弱い性質があります。

ほぼ無相関のデータに、右上の遠くへ1点を加えるだけで、$r$ が大きくプラスへジャンプして「強い正の相関がある」ように見えてしまうことがあります。逆に、本当は強い相関があるのに、1点の外れ値で $r$ がぐっと下がることもあります。

非線形の関係

もう1つの落とし穴が非線形(直線的でない)の関係です。相関係数はあくまで「直線的な連動」を測るので、山なり(U字型)のようなはっきりした関係があっても $r\approx 0$ になってしまうことがあります。

変数 x → 変数 y →

非線形 ─ はっきりした山なりの関係があるのに $r \approx 0$

理由はこうです。山なりのデータは、左半分では正の連動($x$ が増えると $y$ も増える)、右半分では負の連動($x$ が増えると $y$ は減る)。両者が打ち消し合って、直線的な連動はほぼゼロ。だから $r$ はほぼ $0$ になります。「$r=0$ だから関係なし」と早合点すると、明らかな関係を見逃します。

外れ値も非線形も、相関係数の数値だけ見ていては気づけません。けれど散布図を一度描けば、どちらも一目瞭然。だから相関係数を計算する前に、必ず散布図を描くが、相関分析の鉄則なのです。

CHECK TEST — 確認テスト

この章の理解度チェック

答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。

Q1$x$ と $y$ に相関が見られたとき、$x$ が $y$ の原因であること以外に考えられる可能性を、あと3つ挙げてください。
逆向きの因果($y$ が $x$ の原因)、第三の変数 $z$ が両方の原因(みかけの相関)、たまたま(偶然の相関)の3つです。相関係数はこの4つを区別できません。
Q2$r_{xy}=0.80$、$r_{xz}=0.90$、$r_{yz}=0.85$ のとき、偏相関係数 $r_{xy\cdot z}$ はおよそいくつになるでしょうか?
およそ $0.15$ です。分子は $0.80-0.90\times0.85=0.035$、分母は $\sqrt{1-0.90^2}\times\sqrt{1-0.85^2}\approx0.2296$ なので、$0.035/0.2296\approx0.15$ となります。気温 $z$ の影響を除くと相関がほぼ消えることがわかります。
Q3相関行列にはどんな性質があるでしょうか? 2つ挙げてください。
対角成分は必ず1(自分自身との相関は完全一致)であること、そして対角線をはさんで対称であること($x$–$y$ の相関と $y$–$x$ の相関は同じ値)の2つです。
Q4シンプソンのパラドックスとはどのような現象でしょうか?
各グループ内で見ると同じ向きの相関(例:どちらも負の相関)なのに、全体をまとめると相関の向きが逆転して見えてしまう現象です。グループという第三の変数を無視すると結論が真逆になります。
Q5外れ値や非線形の関係は、相関係数の数値だけでは見抜けません。見抜くために徹底すべき習慣は何でしょうか?
相関係数を計算する前に、必ず散布図を描くことです。外れ値による数値の歪みも、山なりのような非線形の関係も、散布図を見れば一目瞭然です。

次回 1-11 回帰直線 では、散布図に「いちばん良い直線」を1本引く方法を学びます。前回の共分散・相関係数が、その直線の傾きを決める主役として再登場します。

さえちゃん
さえ

「相関は因果じゃない」「まず散布図」──この2つを呪文みたいに唱えておけば、相関のワナにはほぼハマらないよ。偏相関係数も、$0.80$ が $0.15$ になる例で感覚をつかめたかな? 次はいよいよ回帰直線だよ!

HANDWRITING — 紙に書いてインプットしよう!

このページに出てきた重要キーワードです。ページを閉じる前に、声に出しながら紙に手で書いてみてください。手を動かすと、読むだけの何倍も速く記憶に定着します。

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