第2章 2-2 / 確率と確率分布

条件付き確率と乗法定理 — 独立と排反の違い

さえちゃん
さえ

今日は条件付き確率。合言葉は「世界が縮む」だよ。条件が付くと分母が変わる、それだけのことなんだけど、ここから乗法定理・独立・排反と大事な言葉が一気に出てくる。「独立」と「排反」は別物! って、今のうちに意識しておいてね。

1. 条件付き確率 — 世界が縮む

まずは式抜きで、身近な例から入ります。あるクラス30人で、男子18人・女子12人、そのうち「数学が好き」は男子12人・女子6人だったとします。

同じ「数学が好き」なのに、$3/5$ と $2/3$ で答えが違います。理由はシンプル。質問Bでは「男子である」という情報が先に与えられ、考える世界がクラス全体(30人)から男子だけ(18人)に縮んだから。分母が変わったので、確率も変わったのです。

記号と定義

事象 $B$ が起こったという条件のもとで事象 $A$ が起こる確率を、$P(A\mid B)$ と書き、「$B$ が与えられたときの $A$ の条件付き確率」と読みます。縦棒の右側が条件、左側が知りたい事象です。

FORMULA

$$P(A\mid B) = \frac{P(A\cap B)}{P(B)} \qquad (P(B)>0)$$ 「縮んだ世界 $B$ の中で、$A\cap B$ がどれだけの割合か」を計算しています。

クラスの例に当てはめると、$B=$「男子」、$A=$「数学好き」として $P(B)=\dfrac{18}{30}$、$P(A\cap B)=\dfrac{12}{30}$ なので $$P(A\mid B)=\frac{12/30}{18/30}=\frac{12}{18}=\frac{2}{3}.$$ 直感で出した答えと一致しました。式は直感を正確に表現する道具なんですね。

Ω B A A ∩ B 条件 B が「新しい全体」、A∩B が「Bの中でAも起きた部分」

P(A|B) = (A∩Bの広さ) ÷ (Bの広さ)。条件Bを新しい全体とみなす

2. 乗法定理 $P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)$(導出)

条件付き確率の定義式を整理すると、積事象 $P(A\cap B)$ の計算式が手に入ります。これが乗法定理です。

DERIVATION

定義式 $P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}$ の両辺に $P(B)$ を掛けるだけです。 $$ \begin{aligned} P(A\mid B) &= \frac{P(A\cap B)}{P(B)}\\[2pt] P(B)\,P(A\mid B) &= P(A\cap B)\\[2pt] \therefore\quad P(A\cap B) &= P(B)\,P(A\mid B) \end{aligned} $$

「$A$ かつ $B$ の確率は、まず $B$ が起こり、その条件のもとで $A$ が起こる確率を掛けたもの」と読めます。$A$ と $B$ の役割は入れ替えてもよく、$P(A\cap B)=P(A)\,P(B\mid A)$ も同じく成り立ちます(定義の $A,B$ を入れ替えるだけ)。

どちらを「先」と見るかで2通りの書き方がある、と覚えておくとベイズの定理で役立ちます。

FORMULA

$$P(A\cap B) = P(B)\,P(A\mid B) = P(A)\,P(B\mid A)$$

3. 事象の独立 $P(A\cap B)=P(A)P(B)$

ここで特別な場合を考えます。「$B$ が起きたと分かっても、$A$ の確率がまったく変わらない」。そんな関係を独立といいます。条件があってもなくても確率が同じ、つまり $$P(A\mid B) = P(A)$$ が成り立つ状態です。これを乗法定理に代入してみましょう。

DERIVATION

$$ \begin{aligned} P(A\cap B) &= P(B)\,P(A\mid B) &&\text{(乗法定理)}\\[2pt] &= P(B)\,P(A) &&\text{(独立)}\\[2pt] &= P(A)\,P(B) \end{aligned} $$ 逆に $P(A\cap B)=P(A)P(B)$ が成り立てば、条件付き確率の定義から $$ \begin{aligned} P(A\mid B) &= \frac{P(A\cap B)}{P(B)}\\[2pt] &= \frac{P(A)\,P(B)}{P(B)} = P(A) \end{aligned} $$ となり、独立に戻ります。

RULE

事象 $A,\,B$ が独立であるとは、次の2つが(同じ意味で)成り立つことです。 $$ \begin{gathered} P(A\cap B)=P(A)\,P(B)\\[2pt] \Updownarrow\\[2pt] P(A\mid B)=P(A) \end{gathered} $$ 「情報があっても確率が変わらない」と「掛け算で積事象が出る」は、まったく同じことを言っています。

独立なときだけ $P(A\cap B)$ を単純な掛け算 $P(A)P(B)$ で計算できます。独立でなければ、必ず条件付き確率を挟んだ $P(B)P(A\mid B)$ を使う。ここが2級の頻出ポイントです。

さえちゃん
さえ

ここ超重要! 「独立」と「排反」はまったく別物だよ。名前は似てるけど、むしろ正反対に近いの。次の節で表にして並べるから、ごちゃ混ぜにしないようにね!

4. 独立と排反の違い(対比)

2級で取り違えが多いのが、独立排反です。言葉が似ているだけで、意味はまったく違います。表で並べてみましょう。

観点独立排反(互いに素)
意味一方の情報が他方の確率に影響しない同時には起こらない
積事象の式$P(A\cap B)=P(A)P(B)$$P(A\cap B)=0$
条件付き確率$P(A\mid B)=P(A)$$P(A\mid B)=0$
ベン図重なる(重なりの面積が $P(A)P(B)$)重ならない
イメージ互いに無関係互いに打ち消し合う(強い負の関係)
コイン投げとサイコロ同じサイコロで「偶数」と「奇数」

決定的な違いは、$P(A),\,P(B)$ がともに正のとき、独立と排反は両立しないことです。排反なら $P(A\cap B)=0$ ですが、独立なら $P(A\cap B)=P(A)P(B)>0$。

両方を同時に満たすのは確率がゼロの事象だけです。むしろ排反は「片方が起きたらもう片方は絶対に起きない」という、独立とは正反対の強い関係だと捉えると間違えません。

POINT

排反は足し算のとき(加法定理が $P(A)+P(B)$ に簡単化)、独立は掛け算のとき($P(A\cap B)=P(A)P(B)$)に効く性質。「足すなら排反、掛けるなら独立」とセットで覚えましょう。

EXAMPLE(同じサイコロで独立と排反を見分ける)

サイコロを1回振る。$A=$「偶数」$=\{2,4,6\}$ に対して、$B=$「奇数」$=\{1,3,5\}$ と $C=$「3の倍数」$=\{3,6\}$ は、それぞれ $A$ と排反か、独立か?

まず $A$ と $B$。共通の目がないので $A\cap B=\varnothing$、つまり排反で $P(A\cap B)=0$ です。一方、独立なら成り立つはずの掛け算は $$P(A)\,P(B)=\frac12\times\frac12=\frac14 \;\ne\; 0$$ なので独立ではありません。奇数と分かった瞬間に偶数の可能性は消える($P(A\mid B)=0$)ので、むしろ強く関係しています。

次に $A$ と $C$。共通の目は $\{6\}$ で $P(A\cap C)=\dfrac16$。$P(A)=\dfrac12$、$P(C)=\dfrac26=\dfrac13$ なので $$P(A)\,P(C)=\frac12\times\frac13=\frac16=P(A\cap C)$$ 掛け算がぴったり一致するので独立です。「3の倍数」と分かっても、偶数である確率は $P(A\mid C)=\dfrac12=P(A)$ のまま変わりません。もちろん 6 で重なっているので排反ではありません。

同じ $A$ でも、相手が $B$ なら「排反だが独立ではない」、$C$ なら「独立だが排反ではない」。独立と排反が別物だと、これでよく分かります。

5. 数値例で確かめる

乗法定理がもっとも活きるのが、非復元抽出(戻さずに引く)です。1回目の結果で中身が変わるため、2回目は1回目に依存する、つまり独立ではありません。だからこそ、条件付き確率を挟んだ乗法定理が必要になります。後半では、各回が独立な「乱数サイ」の問題も扱います。

EXAMPLE 1(連続して赤を引く)

袋に赤玉4個、白玉6個(合計10個)。戻さずに2回引くとき、両方とも赤である確率は?

$A=$「1回目が赤」、$B=$「2回目が赤」とします。1回目は10個中4個なので $P(A)=\dfrac{4}{10}$。1回目で赤を1個引いた後、袋は赤3個・白6個(合計9個)に縮むので、条件付き確率は $P(B\mid A)=\dfrac{3}{9}$。乗法定理より $$P(A\cap B) = P(A)\,P(B\mid A) = \frac{4}{10}\times\frac{3}{9} = \frac{12}{90} = \frac{2}{15} \approx 0.133$$

もし復元抽出(毎回戻す)なら2回とも独立で $P(A\cap B)=\dfrac{4}{10}\times\dfrac{4}{10}=\dfrac{4}{25}=0.16$。戻さない場合のほうが少し低いのは、1回目で赤が1個減るからです。

EXAMPLE 2(トランプ・連続してエース)

52枚から戻さずに2枚引くとき、両方ともエース(4枚)である確率は?

1枚目がエースの確率は $\dfrac{4}{52}$。1枚抜けてエース3枚・残り51枚になるので、2枚目がエースの条件付き確率は $\dfrac{3}{51}$。よって $$P(\text{両方エース}) = \frac{4}{52}\times\frac{3}{51} = \frac{12}{2652} = \frac{1}{221} \approx 0.0045$$

EXAMPLE 3(独立かどうかの判定)

サイコロを1回振る。$A=$「偶数」$=\{2,4,6\}$、$B=$「3以下」$=\{1,2,3\}$ は独立か?

$P(A)=\dfrac{3}{6}=\dfrac12$、$P(B)=\dfrac{3}{6}=\dfrac12$。積事象は $A\cap B=\{2\}$ なので $P(A\cap B)=\dfrac16$。一方、独立なら成り立つはずの掛け算は $$P(A)\,P(B)=\frac12\times\frac12=\frac14$$ $\dfrac16\ne\dfrac14$ なので、$A$ と $B$ は独立ではないと判定できます。「偶数と分かると、3以下である割合が少し変わる」ということです。さきほどの「偶数と奇数(排反)」「偶数と3の倍数(独立)」と合わせて、この組は「排反でも独立でもない」3つ目のパターンです。

EXAMPLE 4(乱数サイを4回投げる)

乱数サイは、$0$ から $9$ までの10個の数字がどれも等確率 $\dfrac{1}{10}$ で出るサイコロです(統計検定でおなじみの道具)。これを4回投げるとき、次の確率は?

(1) 少なくとも1回は $0$ が出る確率
各回の目は前の結果に影響されないので、4回の投げは独立です。まず余事象「4回とも $0$ 以外」を考えると、1回あたり $\dfrac{9}{10}$ なので、掛け算で $$\left(\frac{9}{10}\right)^4=\frac{6561}{10000}=0.6561$$ よって、少なくとも1回は $0$ が出る確率は $$1-0.6561=0.3439$$

(2) 4回の目がすべて異なる確率
1回目は何が出てもよく $\dfrac{10}{10}$。2回目は「1回目と違う」9通り、3回目は「前の2回と違う」8通り、4回目は7通り。前の結果を条件にした確率を順に掛ける、乗法定理の連鎖です。 $$\frac{10}{10}\times\frac{9}{10}\times\frac{8}{10}\times\frac{7}{10}=\frac{5040}{10000}=0.504$$

投げ自体は独立でも、「前と違う目が出る」という事象は前の結果に依存します。(1) は独立の掛け算、(2) は条件付き確率の掛け算。同じ乱数サイで両方の使い分けを確かめられる問題です。

CHECK TEST — 確認テスト

この章の理解度チェック

答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。

Q1条件付き確率の定義式を書き、縦棒の右側と左側がそれぞれ何を表すか答えてください。
$P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)}$($P(B)>0$)。縦棒の右側 $B$ が条件(縮んだ新しい全体)、左側 $A$ が知りたい事象です。「$B$ の中で $A\cap B$ がどれだけの割合か」を計算しています。
Q2乗法定理を、2通りの書き方で答えてください。
$P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)=P(A)\,P(B\mid A)$。「先に $B$ が起こり、その条件で $A$」と読んでも、「先に $A$、その条件で $B$」と読んでも同じ積事象の確率になります。この入れ替えがベイズの定理の土台です。
Q3「独立」と「排反」で、積事象の確率はそれぞれどうなるでしょうか? 両方を同時に満たすことはできますか?
独立なら $P(A\cap B)=P(A)\,P(B)$、排反なら $P(A\cap B)=0$。$P(A),\,P(B)$ がともに正のとき、掛け算は正になるので両立しません。排反は「片方が起きたらもう片方は絶対に起きない」強い関係で、独立とは正反対です。
Q4赤玉4個・白玉6個の袋から、戻さずに2個引きます。両方とも赤である確率はいくつでしょうか?
1回目が赤は $\dfrac{4}{10}$、その条件で2回目も赤は $\dfrac{3}{9}$。乗法定理より $\dfrac{4}{10}\times\dfrac{3}{9}=\dfrac{2}{15}\approx 0.133$。戻さないので2回目は1回目に依存し、条件付き確率を挟む必要があります。
Q50から9が等確率で出る乱数サイを4回投げるとき、少なくとも1回は0が出る確率はいくつでしょうか?
各回は独立なので、4回とも0以外の確率は $\left(\dfrac{9}{10}\right)^4=0.6561$。余事象をとって $1-0.6561=0.3439$。独立なら掛け算、「少なくとも1回」なら余事象、の合わせ技です。

次回 2-3 ベイズの定理 では、乗法定理と「向きを入れ替える」発想を組み合わせて、$P(B\mid A)$ から $P(A\mid B)$ を逆算します。今日の乗法定理が、その式の土台になります。

さえちゃん
さえ

おつかれさま! 合言葉は「足すなら排反、掛けるなら独立」、そして「世界が縮む」。乗法定理 $P(A\cap B)=P(B)P(A\mid B)$ は独立かどうかに関係なく使える万能選手だよ。次はいよいよベイズの定理だ!

HANDWRITING — 紙に書いてインプットしよう!

このページに出てきた重要キーワードです。ページを閉じる前に、声に出しながら紙に手で書いてみてください。手を動かすと、読むだけの何倍も速く記憶に定着します。

  • 条件付き確率
  • 乗法定理
  • 事象の独立
  • 排反(互いに素)
  • 非復元抽出
  • 復元抽出