第2章 2-3 / 確率と確率分布

ベイズの定理 — 全確率の定理からの導出と病気検査

さえちゃん
さえ

ベイズの定理は、2級の中でもとくに「聞かれ方が決まっている」単元だよ。病気検査や工場の不良品のように、結果から原因をさかのぼる問題。式は長く見えるけど、全確率の定理で分母を作って、知りたい経路を分子に置くだけ。樹形図を描けば怖くない!

1. 原因と結果、向きを入れ替えたい

健康診断で、ある病気の検査を受けたら「陽性」と言われた。こんなとき、誰でも「本当に病気なのだろうか」と気になります。ベイズの定理は、こうした「結果を見て、原因の確率を考え直す」場面のための道具です。この講では、この病気検査を例に進めていきます。

前回までに学んだ $P(B\mid A)$ は、「$A$ という原因のもとで $B$ という結果が出る確率」でした。検査に当てはめると、$A=$「病気である」、$B=$「陽性が出る」として、$P(B\mid A)$ は「病気の人が陽性になる確率」です。これは検査の性能として、あらかじめ分かっている数字です。

でも私たちが本当に知りたいのは、向きが逆の $P(A\mid B)$、つまり「陽性が出たとき、本当に病気である確率」のほうです。結果は見えても、原因は見えない。だから結果から原因をさかのぼる必要がある。これを可能にするのがベイズの定理です。

POINT

$P(B\mid A)$:原因 → 結果(手に入りやすい情報)。
$P(A\mid B)$:結果 → 原因(本当に知りたい情報)。
ベイズの定理は、この2つの向きを入れ替える公式です。

2. 全確率の定理(導出)

ベイズの定理を組み立てる前に、分母を作る道具全確率の定理を用意します。発想は「結果 $B$ が起こる確率を、原因ごとの経路に分けて足す」ことです。

準備:分割(排反でもれなく覆う)

原因の候補 $A_1, A_2, \dots, A_k$ が、標本空間 $\Omega$ を分割しているとします。分割とは、互いに排反($i\ne j$ なら $A_i\cap A_j=\varnothing$)で、かつ合わせると全体を覆う($A_1\cup\cdots\cup A_k=\Omega$)ことです。たとえば「病気である/病気でない」の2つは、もっとも単純な分割です。

Ω A₁ A₂ A₃ B B∩A₁ B∩A₂ B∩A₃

分割 A₁,A₂,A₃ が Ω を覆う。事象 B は各 Aᵢ との重なりに分かれる

導出

事象 $B$ は、各原因 $A_i$ との重なり $B\cap A_i$ に「もれなく・だぶりなく」分かれます(上図)。これらは互いに排反なので、確率を足してよく、各重なりに乗法定理を当てれば全確率の定理が出ます。

DERIVATION

$$ \begin{aligned} B &= (B\cap A_1)\cup(B\cap A_2)\cup\cdots\cup(B\cap A_k) &&\text{(} B \text{ を原因ごとに分ける)}\\[2pt] P(B) &= \sum_{i=1}^{k} P(B\cap A_i) &&\text{(} B\cap A_i \text{ は互いに排反なので加法性)}\\[2pt] &= \sum_{i=1}^{k} P(A_i)\,P(B\mid A_i) &&\text{(各項に乗法定理を適用)} \end{aligned} $$

FORMULA

全確率の定理 $$P(B) = \sum_{i=1}^{k} P(A_i)\,P(B\mid A_i)$$ 「$B$ が起こる確率は、$B$ にたどり着くすべての経路(原因 $A_i$ 経由)を足したもの」。

3. ベイズの定理(導出)

準備が整いました。知りたいのは $P(A_i\mid B)$(結果 $B$ から原因 $A_i$ をさかのぼる確率)です。条件付き確率の定義から出発します。

DERIVATION

$$ \begin{aligned} P(A_i\mid B) &= \frac{P(A_i\cap B)}{P(B)} &&\text{(条件付き確率の定義)}\\[2pt] &= \frac{P(A_i)\,P(B\mid A_i)}{P(B)} &&\text{(分子に乗法定理)}\\[2pt] &= \frac{P(A_i)\,P(B\mid A_i)}{\displaystyle\sum_{j=1}^{k} P(A_j)\,P(B\mid A_j)} &&\text{(分母に全確率の定理)} \end{aligned} $$

分子は「原因 $A_i$ を経由して $B$ に至る確率」、分母は「あらゆる原因を経由して $B$ に至る確率の合計」。つまりベイズの定理は、「$B$ が起きた全経路のうち、$A_i$ 経由が占める割合」を計算しているだけなのです。

FORMULA

ベイズの定理 $$P(A_i\mid B) = \frac{P(A_i)\,P(B\mid A_i)}{\displaystyle\sum_{j=1}^{k} P(A_j)\,P(B\mid A_j)}$$ ここで $P(A_i)$ を事前確率、$P(A_i\mid B)$ を事後確率と呼びます。

さえちゃん
さえ

ベイズの定理は「事前確率を、データで事後確率に更新する」装置だと思ってね。検査を受けるの見込み $P(A)$ が、陽性という結果を知ったあとに $P(A\mid B)$ へとアップデートされるの。次の例で体感しよう!

4. 病気検査の例 — 事前確率から事後確率へ

EXAMPLE(病気検査)

ある病気について、次のことが分かっています。

  • この病気にかかっている人は、人口全体の 1%(事前確率)
  • 感度:病気の人が検査で陽性になる確率は 90%
  • 特異度:病気でない人が検査で陰性になる確率は 95%(=誤って陽性になる確率は5%)

ある人が検査を受け、結果は陽性でした。この人が本当に病気である確率は?

用語の整理:感度と特異度

感度(sensitivity)は「病気の人を正しく陽性と判定する確率」$P(\text{陽性}\mid\text{病気})$、特異度(specificity)は「病気でない人を正しく陰性と判定する確率」$P(\text{陰性}\mid\text{病気でない})$ です。

どちらも原因 → 結果向き($P(B\mid A)$ 型)の数字。私たちが知りたい結果 → 原因向きの $P(\text{病気}\mid\text{陽性})$ は、ここから計算で出します。

まずは直感で

計算の前に予想してみてください。「感度90%もあるなら、陽性なら90%くらい病気では?」と感じる人が多いはず。ところが実際の答えは約15.4%。検査がそこそこ優秀でも、陽性が出て病気である確率は意外なほど低いのです。なぜか、樹形図で確かめましょう。

樹形図で人数に置き換える

確率を割合のまま扱うと混乱しやすいので、10,000人を仮定して人数で追います。事象を $A=$「病気」、$A^c=$「病気でない」、$B=$「陽性」とします。

10,000人 ×0.01 ×0.99 病気 100人 病気でない 9,900人 ×0.90 ×0.10 ×0.05 ×0.95 陽性 90人 陰性 10人 陽性 495人 陰性 9,405人

10,000人を分岐させてカウント。陽性は 90 + 495 = 585人(うち本当に病気は90人だけ)

陽性者585人のうち、本当に病気なのは90人だけ。残り495人は誤判定(偽陽性)です。したがって $$P(\text{病気}\mid\text{陽性}) = \frac{90}{585} \approx 0.1538 \;(\approx 15.4\%).$$

ベイズの定理の式で確認

同じ計算を、いま導いた式で書きます。原因の分割は $A$(病気)と $A^c$(病気でない)の2つ。値は $P(A)=0.01$、$P(B\mid A)=0.90$、$P(A^c)=0.99$、$P(B\mid A^c)=0.05$ です。

DERIVATION

$$ \begin{aligned} P(A\mid B) &= \frac{P(A)\,P(B\mid A)}{P(A)\,P(B\mid A) + P(A^c)\,P(B\mid A^c)} &&\text{(ベイズの定理・2分割)}\\[2pt] &= \frac{0.01\times 0.90}{0.01\times 0.90 + 0.99\times 0.05} &&\text{(値を代入)}\\[2pt] &= \frac{0.009}{0.009 + 0.0495} = \frac{0.009}{0.0585}\\[2pt] &\approx 0.1538 \;(\approx 15.4\%) \end{aligned} $$

人数で出した $90/585$ と、式で出した $0.009/0.0585$ は同じ値です。式は人数の計算を正確に表現する道具にすぎません。

事前確率1%が、陽性という情報によって事後確率15.4%へと更新された。これがベイズ的なものの見方です(それでも病気の見込みは1%から15倍以上に跳ね上がっている、とも読めます)。

なぜこんなに低いのか

理由は事前確率が小さいこと。病気はもともと100人に1人なので、10,000人中わずか100人。一方、病気でない9,900人のたった5%でも人数にすると495人にもなります。母数の大きいグループから出る誤判定の絶対数が、正しい陽性を上回ってしまうのです。

POINT

感度・特異度(検査の性能)が高くても、事前確率が低いと事後確率はそれほど高くならない。「精度」と「事前確率」の両方を見るのがベイズの考え方で、稀な病気で「陽性なら追加検査」が推奨される理由でもあります。

5. 3分割の例 — 工場の不良品

分割は2つに限りません。$k$ 個でもまったく同じ式が使えます。3台の機械の例で確かめましょう。

EXAMPLE(どの機械の不良品か)

工場で、機械 $A_1,A_2,A_3$ が製品の $50\%,\,30\%,\,20\%$ を作り、不良率はそれぞれ $1\%,\,2\%,\,3\%$ とします。抜き取った1個が不良品 $B$ だったとき、それが $A_3$ 製である確率は?

まず分母(全確率の定理)を計算します。 $$ \begin{aligned} P(B) &= P(A_1)P(B\mid A_1) + P(A_2)P(B\mid A_2) + P(A_3)P(B\mid A_3)\\ &= 0.50\times 0.01 + 0.30\times 0.02 + 0.20\times 0.03\\ &= 0.005 + 0.006 + 0.006 = 0.017 \end{aligned} $$ これをベイズの定理の分母に入れて、 $$P(A_3\mid B) = \frac{P(A_3)P(B\mid A_3)}{P(B)} = \frac{0.20\times 0.03}{0.017} = \frac{0.006}{0.017} \approx 0.353 \;(\approx 35.3\%).$$

生産シェアは $A_3$ が20%なのに、不良品の中では約35%を占めます。不良率の高い $A_3$ が「不良品」という条件のもとで過剰に代表されるわけです。事前20% → 事後35%への更新、と読めます。

CHECK TEST — 確認テスト

この章の理解度チェック

答えを開く前に、必ずノートに手で書いてください。書いてから答え合わせをすることで、試験本番でも同じ判断がすぐにできるようになります。

Q1全確率の定理は、何と何を組み合わせて結果の確率を組み立てる定理でしょうか?
標本空間の分割 $A_1,\dots,A_k$(排反でもれなく覆う原因の候補)と、乗法定理です。結果 $B$ を原因ごとの経路に分けて $P(B)=\sum_i P(A_i)\,P(B\mid A_i)$ と足し合わせます。
Q2ベイズの定理の分子と分母は、それぞれ何を表しているでしょうか?
分子 $P(A_i)\,P(B\mid A_i)$ は「原因 $A_i$ を通って結果 $B$ に至る経路」の確率、分母 $\sum_j P(A_j)\,P(B\mid A_j)=P(B)$ は「すべての経路」の合計です。つまり事後確率は「知りたい経路 ÷ 全経路」です。
Q3事前確率と事後確率の違いを、病気検査の例で説明してください。
事前確率は検査を受ける前の「病気である確率」(本文では人口の1%)、事後確率は「陽性」という情報を得たあとの確率(本文では約15.4%)です。情報によって確率が更新される、というのがベイズの見方です。
Q4感度と特異度は、それぞれどんな条件付き確率でしょうか?
感度は $P(\text{陽性}\mid\text{病気})$、つまり病気の人を正しく陽性と判定する確率。特異度は $P(\text{陰性}\mid\text{病気でない})$、つまり病気でない人を正しく陰性と判定する確率です。どちらも「原因 → 結果」の向きの確率です。
Q5感度が90%もあるのに、陽性と出た人が本当に病気である確率は約15%にとどまります。なぜでしょうか?
事前確率が1%と小さいからです。病気でない99%の人のうち5%が誤って陽性になり、その人数(偽陽性)が、病気の1%のうち90%が陽性になる人数(真陽性)より多くなります。陽性者の中で本当の病気の人が少数派になるのです。

これで第2章の確率パートの導入は完了です。次回 2-4 確率変数と確率分布 からは、事象を「数」に対応させた確率変数を導入し、期待値・分散・各種分布へと進みます。今日までの確率の言葉が、そのまま土台になります。

さえちゃん
さえ

おつかれさま、確率の山場クリア! 「陽性でも病気は約15%」の衝撃、忘れないよね。ベイズは「事前確率をデータで更新する」最強の道具。全確率の定理→ベイズ、の流れを一度自分で書いてみてね。次は確率変数の世界へ!

HANDWRITING — 紙に書いてインプットしよう!

このページに出てきた重要キーワードです。ページを閉じる前に、声に出しながら紙に手で書いてみてください。手を動かすと、読むだけの何倍も速く記憶に定着します。

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