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macroscope — 2026年6月11日 / 今日の経済

第3回 「予想どおり」の米CPIなのに株安 ― 織り込み済みでも売られるのは、なぜ?

ゼロから始めた経済の学習ノート、今日で第3回です。この macroscope には、毎日ひとつずつ学んだことを書きためています。きのうの記事で「今夜の米CPI(消費者物価指数)に注目」と書きました。結果は前年比+4.2%、市場予想とぴったり同じ。それなら相場は動かないはず……と思っていたら、米国株は売られ、今朝の日経平均も続落で始まりました。「予想どおりなのに、なぜ?」が今日の問いです。分からない言葉は経済用語ノートに書きためています。

今日のニュース

きのう(6月10日)の夜、米労働省が5月のCPI(消費者物価指数=モノやサービスの値段の動きを測る指標)を発表しました。前年同月比+4.2%。4月の+3.8%から伸びが拡大し、約3年ぶりの大きさです。数字そのものは市場予想(+4.2%)と一致していましたが、米国株は主要指数がそろって下落。日本株も連れ安で、きのうの日経平均は1,237円安、今朝もさらに続落して始まっています。

項目
米5月CPI(前年比)+4.2%(予想と一致、4月は+3.8%)
日経平均 6/10終値64,179円(−1,237円・−1.89%)
日経平均 6/11寄り付き約345円安で続落スタート
ドル円160円台半ば
WTI原油90ドル台で反発

そしてもうひとつ、思わぬニュースがありました。日銀の植田総裁が、感染症の治療のため入院されたそうです(入院は2週間程度の見込み)。来週6月15〜16日の金融政策決定会合は欠席する見通しで、総裁が定例会合を欠席するのは1998年の新日銀法施行以来、初めてとのこと。まずはご快復をお祈りするばかりですが、報道によれば、利上げの見通し自体は変わっていないそうです。

なぜ「予想どおり」なのに売られたのか

まず、今回の流れをひとつの連鎖で見るとこうなります。

  • 中東(ホルムズ海峡)の緊張が続き、原油・ガソリンが高い
  • エネルギー高が配送料や航空運賃など、ほかの値段にも波及する
  • 米5月CPIが前年比+4.2%(4月の+3.8%から加速、約3年ぶりの伸び)
  • 数字は「予想どおり」だったが、インフレが一時的でなく定着するとの見方が強まる
  • FRB(アメリカの中央銀行)の利下げは遠のき、むしろ利上げ警戒すら残る
  • 米国株は主要指数がそろって下落、ドルは買われてドル円は160円台半ば
  • 日本株も連れ安(6/10は1,237円安、6/11も続落スタート)

ここで今日の問いです。相場の世界には「織り込み済み」という言葉があって、株価は発表前から市場の予想を先に反映している、と言われます。だとすれば、実績が予想とぴったり同じなら、新しい情報はゼロ。相場は動かないはず――きのうまでの私はそう理解していました。

でも、どうやら「予想どおり」には二種類あるようです。良い予想どおりと、悪い予想どおり。発表前は「もしかしたら下振れ(インフレが弱まる)かもしれない」という淡い期待の余地が残っています。実績が予想と一致した瞬間、その期待の分だけが消える。つまり「悪い数字が、疑いから事実に変わった」こと自体が、新しい情報なのですね。しかも今回は4月+3.8%→5月+4.2%と加速の向きが確認されたので、「インフレは一時的」という前提そのものが崩れた。動いたのは数字ではなく、数字を読むときの前提のほうだった、というのが今日の腹落ちでした。

日銀の話も、ひとつ学びがありました。総裁が入院しても「利上げ見通しは不変」と伝えられているのは、金融政策が総裁ひとりの判断ではなく、9人の政策委員の多数決で決まる仕組みだからのようです(今回は総裁欠席のため8人で投票、議長は氷見野副総裁が代理)。トップが不在でも方針が揺らがないよう、人ではなく合議の仕組みに権限を持たせている。当たり前のようで、知らなかったことでした。

今日の指標メモ

今日の時点で私が見ている主要な指標です(数値は概算・暫定の学習メモです)。

指標直近の値ひとこと
米5月CPI前年比+4.2%4月+3.8%から加速。約3年ぶりの伸び
日経平均株価64,179円(6/10終値)1,237円安。6/11も続落スタート
S&P500CPI後に下落(概算)インフレ定着観測でハイテク中心に売り
ドル円160円台半ばCPI後もドル高基調。介入警戒が続く
WTI原油90ドル台で反発米イラン協議への懸念で再上昇
米10年債利回り4%台CPIを受け高止まり
日銀 政策金利0.75%(会合待ち)6/15-16に1.0%へ利上げ方針。総裁欠席でも維持と報道

ひとつ訂正です。これまでの指標メモで日銀の政策金利を「0.50%」と書いていましたが、報道を確認すると現在は0.75%で、来週の会合で1.0%への引き上げが検討されている、が正しいようです。お恥ずかしい限りですが、気づいたところから直していきます。一覧ページ上部の「主要指標トラッキング」には今日も1行ずつ足していきます。点が線になると、インフレがじわり加速しているのも見えてくるはずです。

今日の俯瞰

今日たどった流れを、一本の道にまとめると、こうなります。

  • 中東の緊張 → 原油高 → 米CPI+4.2%(インフレ定着の確認) → 米株安・ドル高 → 日本株続落・ドル円160円台半ば → 来週の日銀会合へ(総裁欠席でも利上げ方針)

きのうは「予想どおりなら動かない」と思っていましたが、実際には「悪い予想が事実に変わる」だけで相場は動く。次はいよいよ6月15-16日の日銀会合です。総裁不在のなか、本当に1.0%への利上げが決まるのか。決まったとき、160円台のドル円がどう反応するのかを追いかけます。

要点まとめ

今日いちばんの学びは、「織り込み済み」でも相場は動くということでした。予想と実績が一致しても、「下振れの期待が消えた」「加速の向きが確認された」という形で、前提のほうが書き換わることがある。数字だけでなく、数字の読まれ方まで含めてニュースなのですね。

Excel講師の寄り道をひとつ。株価のセルには、発表前から =将来の予想にもとづく計算式 が入っています。実績が予想どおりなら、F9で再計算しても値は変わらないはず。でも今回動いたのは、入力値ではなく数式の前提のほうが書き換わったからだと思います。「インフレは一時的」という前提で組んだ数式が、「定着するかもしれない」という数式に差し替えられた。入力セルばかり見ていると気づきませんが、数式バーの中身が変わると、同じ入力でも合計はがらりと変わる――シートの検算で何度も経験したことと、同じでした。

経済ニュースはバラバラに見えても、原油という川が物価の川に注ぎ、物価の川が金利の川に注いでいく。来週はその川が日本で合流する日銀会合です。明日もまた、ひとつ賢くなれますように。

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