賃金と実質賃金

Wages and Real Wages

給料が上がっても、買える量が減ることがある ― 名目と実質のずれ

「今年は給料が上がった」と聞くと、暮らしが楽になったように感じます。しかし、その実感が正しいとは限りません。給料の金額そのものが増えていても、物価がそれ以上に上がっていれば、買えるモノやサービスの量はむしろ減ってしまうことがあるからです。

給与明細に書かれている金額を名目賃金(実際に受け取る金額そのものの賃金)と呼びます。これに対して、実質賃金(物価の変動を差し引いた、実際に買える量で見た賃金)は、名目賃金の伸びから物価の伸びを差し引いて、どれだけ「買える力」が変化したかを表す指標です。物価とインフレ率で見た物価の動きが、ここで賃金と結びついてきます。

2025年の実質賃金は、前年比でマイナス1.3%でした(厚生労働省「毎月勤労統計調査」速報値)。名目の給料は増えていても、物価の伸びがそれを上回ったため、実際に買える量で見ると目減りした、ということです。

春闘と賃上げ率 ― 賃上げしても、なぜマイナスになりうるのか

「賃上げ」という言葉自体は、ここ数年よく聞くようになりました。2026年の春闘(春季生活闘争。毎年春に、労働組合と企業が賃金の引き上げなどを交渉する取り組み)における賃上げ率は5.26%で、5%を超える水準は3年連続となりました(連合・第1回回答集計)。数字だけ見れば、かなりの伸びです。

それなのに、なぜ社会全体の実質賃金はマイナスになりうるのでしょうか。理由はいくつか重なっています。まず、春闘の賃上げ率は、主に労働組合のある大企業を中心に集計された数字であり、中小企業や、労働組合のない職場にはそのまま当てはまらない場合があります。また、賃金にはボーナスや残業時間の増減も影響するため、基本給が上がっても、働く時間や手当の変化で平均が押し下げられることもあります。そして何より、物価の伸びそのものが賃上げ率に迫る、あるいは上回る場面があったことが大きく影響しています。

つまり、「賃上げのニュース」と「実質賃金のニュース」は、同じ時期に出てきても、見ている範囲が違う数字だということです。失業率で見た人手不足も、本来は賃上げを後押しする要因のひとつですが、それだけで実質賃金がプラスになるとは限らない、ということでもあります。

実質賃金がプラスになる条件 ― 勝負は「差」で決まる

実質賃金がプラスに転じるための条件は、シンプルです。賃金の伸びが、物価の伸びを上回り続けること。これだけです。賃上げ率が高くても、物価上昇率がそれ以上であれば実質賃金はマイナスになりますし、賃上げ率がそれほど高くなくても、物価が落ち着いていれば実質賃金はプラスになりえます。

大切なのは、賃上げ率という1つの数字だけでも、物価上昇率という1つの数字だけでもなく、その差を見ることです。ニュースの見出しで「賃上げ5%」という数字だけを見て安心するのではなく、同じ時期の物価上昇率と並べて見る習慣を持つと、暮らしの実感に近い判断ができるようになります。この賃金と物価の追いかけっこは、賃金と物価の関係でもう一段掘り下げます。

もっと深く ― 毎月勤労統計調査という一次資料DEEP DIVE

ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。

名目と実質が、両方載っている

ここまで見てきた実質賃金の数字は、厚生労働省が公表している毎月勤労統計調査という統計から来ています。この調査は、全国の事業所を対象に毎月実施されており、名目賃金(現金給与総額)と実質賃金の両方の指数が、あわせて公表されています。

自分で確かめられる一次資料

ニュースで見る「実質賃金マイナス1.3%」という数字も、もとをたどれば、この調査の公表資料にたどり着きます。厚生労働省のサイトで誰でも閲覧でき、業種別・規模別の内訳まで確認できます。ニュースの見出しの奥にある一次資料に触れておくと、翌月・翌年に同じニュースを見たときの理解の速さが変わってきます。

速報値と確報値

なお、統計の数字には速報値(先に公表される、暫定的な数値)と、あとから確定する確報値があります。最初に報じられる数字は多くの場合、速報値です。あとになって数値が微修正されることがある、という点も覚えておくとよいでしょう。

考えてみるTHINK
Q1

賃上げ率5%、物価上昇率3%だった年、手取りの実感はどうなるでしょうか?

ヒント: 「実質賃金がプラスになる条件」で見た、賃金の伸びと物価の伸びの差を当てはめてみましょう。

Q2

自分の給料の伸びと、よく買うものの値上がりでは、どちらが速いでしょうか?

ヒント: 直近の給与明細の金額と、いつも買っているものの値段の変化を、思い出して比べてみましょう。

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