お金はどのように動いているのか
The Flow of Money給料の旅を追いかける
ここまで、お金とは何か、家計・企業・政府・銀行がそれぞれ何をしているか、資産と負債の見方、家計が持つ金融資産の大きさを見てきました。最後に、これらをひとつの流れとしてつなげてみましょう。手がかりは、あなた自身の給料です。
毎月25日、あなたの口座に給料が振り込まれます。これは、あなたが勤めている会社が「あなたが働いて生み出した価値」に対して支払ったお金です。あなたはその一部を使って、近所のスーパーで食料品を買います。レジで支払った代金は、スーパーの売上になります。
スーパーは、この売上から仕入れ先の農家や食品メーカーに代金を支払います。同時に、スーパーで働く店員さんたちの給料も、この売上から支払われます。農家は受け取ったお金で肥料や燃料を買い、店員さんは受け取った給料で家賃を払い、また別の店で買い物をする。あなたが払った代金は、こうして次から次へと持ち主を変えながら、また誰かの給料になり、また誰かの支出になっていきます。
1枚の千円札を思い浮かべてください。あなたの財布から出た千円札は、二度とあなたのところへ戻ってこないかもしれません。しかし消えてしまうわけではなく、スーパーのレジから仕入れ代金へ、仕入れ代金から誰かの給料へと、旅を続けます。お金は、経済の中をぐるぐると巡り続けているのです。
使われなかったお金の行き先
もちろん、給料の全額を使い切る人はあまりいません。多くの人は一部を貯蓄に回します。では、使われずに銀行口座に置かれたお金は、そこで止まっているのでしょうか。実は、そうではありません。
銀行は、預金として集めたお金を金庫にしまい込んでいるわけではなく、お金を必要としている企業に貸し出しています。企業はその借りたお金で工場を建てたり、新しい機械を導入したりします。あなたが銀行に預けた1万円は、銀行を経由して、どこかの企業の設備投資に使われているかもしれません。このように、銀行が間に入ってお金の余っている人から足りない人へ橋渡しする方法を間接金融と呼びます。
もうひとつの方法もあります。あなたが銀行を通さず、証券会社を通じてある企業の株式や社債を直接買う場合です。この場合、あなたのお金は銀行を経由せず、直接その企業に渡ります。これを直接金融と呼びます。日本人の金融資産2,000兆円超とは何かで見た、株式や投資信託の割合が増えている流れは、この直接金融が少しずつ存在感を増していることの表れでもあります。
使われなかったお金も、貯金箱の中で眠っているわけではなく、銀行や証券会社を経由して、誰かの投資という形で経済の中を巡り続けています。
お金は使っても消えない
ここまでの話をまとめると、ひとつの事実が見えてきます。誰かの支出は、必ず誰かの収入になっているということです。あなたがスーパーで払った代金はスーパーの売上になり、スーパーが払った仕入れ代金は農家の収入になり、農家が払った肥料代は肥料メーカーの収入になります。お金は、使っても無くなりません。持ち主を変えながら、経済の中を移動し続けているだけです。
こうしてお金が家計・企業・政府・銀行のあいだをぐるぐると巡ることで、経済は動き続けています。もしこの流れが止まってしまったら、給料も売上も生まれません。逆に言えば、この流れがどれだけ活発に、どれだけ大きく回っているかを見れば、経済の元気さを測ることができそうです。
実は、この「1年間にどれだけの流れが生まれたか」を測る数字が、すでに存在します。日本の名目GDP(国内総生産。1年間に国内で新しく生み出された価値の合計)は、2024年度でおよそ600兆円でした。給料の旅のように、日々小さく繰り返されているお金の流れを1年分すべて足し合わせると、この規模になります。この数字が何を測っていて、どう読めばよいのか。それが次のテーマです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
誰か一人が節約しても、経済は困らない
あなたが今月、外食を1回減らして節約したとします。困るのは、あなたが行くはずだったお店の売上が少し減ることくらいで、経済全体への影響はごくわずかです。ひとりの家計にとって、節約は堅実で合理的な選択です。
でも、全員が同時に節約すると
将来が不安になり、日本中の家計がいっせいに財布のひもを締めたとしたらどうでしょうか。あちこちのお店で売上が落ち込みます。売上が落ちたお店は、仕入れを減らし、店員さんの給料を減らすかもしれません。給料が減った店員さんは、さらに支出を控えます。すると、また別のお店の売上が落ちます。
ひとりひとりにとっては正しい選択のはずの「節約」が、全員で同時に行うと、お金の流れそのものを細くしてしまう。これは経済学で古くから知られている現象で、物価が下がり続けるデフレ(デフレーション。世の中の物やサービスの値段が全体的に下がり続ける状態)の入口としても語られます。「個人にとっての正解」と「全員が同時にやったときの結果」が食い違うことがある、という一例です。
節約は、ひとりの家計にとっては合理的な選択です。もし日本中の人が同時に節約をしたら、経済全体では何が起きるでしょうか?
ヒント: 「もっと深く」で扱った、売上と給料がつながっている話を思い出してみましょう。
あなた自身の今月の給料は、もとをたどると誰の支出から来ているでしょうか?
ヒント: あなたの勤め先の売上や収入が、どこから来ているかを考えてみましょう。