家計・企業・政府・銀行の役割
Economic Players経済の登場人物は4人
ニュースで「景気が」「日銀が」と聞くと、経済はどこか遠い専門家だけの世界に思えます。でも実際には、経済という舞台に立っている登場人物はそれほど多くありません。家計・企業・政府・銀行の4人です。
私たちが毎朝出かけて働き、給料をもらって夕食の材料を買う。その一つひとつの行動が、実はこの4人がお金をやり取りする経済全体の一部です。まずは、それぞれが何をしている人物なのか、一覧で確認しましょう。
| 登場人物 | していること | お金の主な動き |
|---|---|---|
| 家計 | 働いて稼ぎ、生活のために使う | 企業から給料を受け取る/店やサービスに支払う |
| 企業 | ものやサービスを作って売る | 家計に給料を払う/売上を受け取る |
| 政府 | 税金を集めて公共サービスに使う | 家計・企業から税金を集める/道路・学校・年金などに支払う |
| 銀行 | お金の余っている所と足りない所をつなぐ | 家計から預金を預かる/企業や家計に貸し出す |
「家計」という言葉は、あなたや私のような一人ひとりの生活者、つまり世帯を指す経済のことばです。1人暮らしでも家族4人でも、消費の主体としてひとまとめに「家計」と呼びます。
4人の名前を覚えるだけでは、あまり意味がありません。大事なのは、この4人のあいだをお金がどう流れているかという矢印のほうです。次の3つの節で、家計と企業、政府、銀行という3つの関係を、順番に1つずつたどっていきます。
たとえば、休日にコンビニでコーヒーを買うとします。支払った代金の一部は企業(コンビニ本部と店舗)の売上になり、一部は商品にかかる消費税として政府に納められます。もしそのコーヒー代を、給料日前で銀行のカードローンで立て替えていたとしたら、この小さな買い物1つに、もう登場人物の全員が関わっていることになります。
家計と企業 ― 働いて、買う
家計と企業の関係は、いちばん身近です。あなたが会社で働くと、企業から給料という形でお金が家計に流れます。そのお金でスーパーに行って食材を買うと、今度は家計から企業へお金が流れます。
スーパーが受け取ったお金は、そのまま金庫に眠るわけではありません。仕入れ先への支払いや、そこで働く人の給料になります。つまりあなたが払った1,000円は、また別の家計の給料の一部になって戻っていきます。
仮に毎月の給料が25万円だとします。その中から家賃や食費、光熱費として20万円を企業に払い、残り5万円を貯金に回したとしましょう。企業に流れた20万円は、また誰かの給料や仕入れ代金になって、別の家計へ戻っていきます。
このように、お金は家計→企業→家計→企業…と、ぐるぐる回り続けています。この回り方をたどっていくと、お金はどのように動いているのかという次のテーマにつながっていきます。
ただし、家計は給料をすべて使い切るわけではありません。一部は貯金として手元に残します。貯金された分は、いったんこの「家計→企業」の輪から外れます。行き先がなくなったように見えるこの貯金が、実は次に見る銀行というもう1人の登場人物とつながっています。
政府の役割 ― 集めて、配る
家計と企業だけでお金が回っているなら、政府はなぜ必要なのでしょうか。政府の役割は一言でいうと、再分配(集めたお金を、必要なところへ配りなおすこと)です。
家計や企業から税金という形でお金を集め、それを道路や橋、学校、警察や消防、年金や医療といった、個人や1つの会社だけでは用意しにくいものに使います。あなたが払った消費税は、いったん国庫に集まり、公共サービスという形で社会全体に配りなおされています。
2025年度の国の一般会計予算は、およそ115兆円です(財務省、2025年度当初予算)。これは、家計や企業から集めた税金や借金を元手に、1年間で政府が使う金額の規模です。
政府がお金を使う先は、大きく2種類に分けられます。1つは、道路や学校のようにみんなで使う設備を作る使い方。もう1つは、年金や医療費のようにある人から別の人へお金をそのまま移す使い方です。働く世代が納めた保険料が、高齢の世代の年金として支払われるのは、この2つ目の典型例です。
たとえば、病院で診察を受けたとき、窓口で払うのは医療費の一部だけで、残りは税金や保険料からまかなわれています。学校の授業料が家計の負担だけでは説明できないほど安いのも、道路が通行料なしで使えるのも、同じ理屈です。目に見えない形で、政府がすでに費用の多くを肩代わりしているのです。
銀行の役割 ― 橋渡し役
家計の中には、給料をもらってもすぐには使わず、貯金する人がいます。一方で企業の中には、工場を建てたいけれど手元のお金だけでは足りない、という人もいます。この「余っている人」と「足りない人」を橋渡しするのが銀行です。
銀行は家計から預金を預かり、そのお金を企業に貸し出します。企業は借りたお金で工場や店を建て、そこで生まれた利益の一部を利息として銀行に返します。銀行はその利息の一部を、預金者への利息として還元します。
たとえば、あなたが銀行に100万円を預けると、銀行はそのお金の一部を、住宅ローンを組みたい別の家計や、設備投資をしたい企業に貸し出します。貸し出す金利と、預金者に払う金利の差額が銀行の収入になります。この差額を利ざや(貸し出す金利と、預かる金利の差)と呼びます。
もし銀行がなかったら、工場を建てたい企業は、近所に眠っているかもしれない貯金を自力で探して口説き落とすしかありません。銀行という仲介役がいるおかげで、お金の余っている場所から足りない場所へ、効率よく届くようになっています。
このように、預金者と借り手のあいだに銀行が入る仕組みを間接金融(銀行などを間に挟んで、お金の出し手と受け手をつなぐ方法)と呼びます。これに対して、企業が株式や社債を発行して、投資家から直接お金を集める方法を直接金融(企業が投資家から、銀行を介さず直接お金を集める方法)と呼びます。どちらも、余っているお金を足りない所へ届けるという役割は同じです。
ここからは、基礎の一歩先の話です。読み飛ばしても本筋は追えます。
国境の外にも、お金は流れている
ここまで家計・企業・政府・銀行という4人の登場人物を見てきましたが、実際の経済には、もう1人隠れた登場人物がいます。海外です。
日本の企業が外国に自動車を輸出すれば、海外から日本へお金が流れ込みます。逆に、日本がレアアースや原油を輸入すれば、日本から海外へお金が出ていきます。私たちが外国の株式や債券に投資するのも、海外とのお金のやり取りの一つです。
円安・円高のニュースがこれほど話題になるのは、この海外との出入りが、家計の暮らしにも直結しているからです。輸出額と輸入額の差を貿易収支(輸出額と輸入額の差)と呼び、輸出が輸入を上回れば黒字、下回れば赤字と表現されます。スーパーで海外産の食品や燃料の値段が上がったと感じるとき、その裏では海外という登場人物とのお金のやり取りが動いています。海外という5人目の登場人物については、輸出入や為替を扱うテーマで、あらためて取り上げます。
登場人物は増えても、基本の構図は変わらない
海外を加えても、経済の基本の見方は変わりません。誰かの支払いは、必ず誰かの受け取りになっています。家計・企業・政府・銀行・海外の5人が、それぞれお金を払ったり受け取ったりしながら、社会全体でバランスを取り合っている。それが経済という仕組みの正体です。次のテーマでは、この5人のあいだをお金がどう巡っていくのか、給料を主人公にした物語としてたどっていきます。
自分が払った消費税は、そのあとどこへ行くのでしょうか?
ヒント: 政府がどんなことにお金を使っているか、ニュースや自治体の広報を思い出してみましょう。
銀行が無かったら、家や工場は建てられるでしょうか?
ヒント: 家計の貯金と、企業がお金を必要とするタイミングを、自力でつなげようとしたら何が起きるか考えてみましょう。