時系列グラフ作成上の注意点
前回は時系列データの要約を学びました。今回は、その時系列データをグラフにするときに気をつけたい点を整理します。
前半は時間軸の間隔のお話です。後半は、初学者にとって少しハードルの高い対数を扱います。「対数って何?」というところから、対数変換するとデータの何が見えるようになるのかまで、できるだけかみ砕いて説明していきます。
1. 時間の間隔をきちんと示す
時系列グラフでもっとも基本的かつ重要なのが、横軸(時間軸)の間隔を正しく取ることです。簡単に思えますが、ついうっかり崩してしまうことの多いポイントです。
等間隔が原則
時系列グラフの横軸は、同じ単位の時間が等間隔に並んでいるのが大原則です。月次データなら毎月が等間隔、年次データなら毎年が等間隔。これがズレていると、線の傾きから変化のスピードを正しく読み取れなくなります。
欠損データがあるときの注意
実務では、ある時点のデータが取れていないことがあります。たとえば次のような会社の売上推移を考えてみてください。
- 2018年:100万円
- 2019年:110万円
- 2020年:(記録なし)
- 2021年:105万円
- 2022年:120万円
- 2023年:130万円
ここで、2020年のデータがないからといって、その年を飛ばして2018→2019→2021→2022→2023を等間隔で並べると、「コロナ禍で売上が伸び悩んだ年」が消えてしまいます。読み手は2019から2021にかけて単に「110→105」と一年で減ったように勘違いしてしまうのです。
欠損があるときの正しい描き方
欠損データがあるときは、次のような工夫が必要です。
- 欠損年も横軸上には残し、その時点だけ点を打たずに線を切る
- あるいは欠損部分を破線でつなぎ、「データなし」とラベルする
- イベント(コロナ禍など)が原因なら、そのことを注記する
時間軸は「物理的な時間の流れと一致している」ことが必須です。データの有無に関わらず、時間そのものは等間隔で進んでいきます。それを忠実に表現するのがフェアなグラフです。
不規則な観測の場合
観測自体が不規則な間隔で行われた場合(たとえば3ヶ月後と次は1年後、というような)、横軸はその実際の時間間隔に応じた幅で配置するのが正しい表現です。「データの観測点ごとに等間隔に並べる」と、変化のスピードが歪んで伝わってしまいます。
「あれ、なんか変?」って思ったグラフ、まず横軸を見てみて。データのない年を飛ばしてたり、観測間隔がバラバラだったりすること、けっこうあるんだよ。
2. 対数(たいすう)とは ― 基礎から丁寧に
ここからが今回のメインテーマです。対数は、初めて聞くと「数学っぽくて難しそう」と感じる用語ですが、考え方そのものはシンプルです。一歩ずつ進めていきましょう。
まずは累乗(るいじょう)の復習から
対数の前に、累乗を確認します。累乗とは「同じ数を何回か掛け合わせること」です。
- 10 を 2回掛ける = 10 × 10 = 100(10² と書きます)
- 10 を 3回掛ける = 10 × 10 × 10 = 1,000(10³)
- 10 を 4回掛ける = 10 × 10 × 10 × 10 = 10,000(10⁴)
この「10を何回掛けたか」の回数を指数と呼びます。10² なら指数は2、10³ なら指数は3、というふうに。
対数は「逆向きの問い」
ここで質問を逆向きにしてみます。「100は10を何回掛けた数?」「1000は10を何回掛けた数?」と問われたら、それぞれ「2回」「3回」と答えられますね。この「何回掛けたか」を求める計算が、対数です。
記号では log(ログ) と書きます。
log10(100) = 2 (100は10を2回掛けた数だから)
log10(1,000) = 3 (1,000は10を3回掛けた数だから)
log10(10,000) = 4 (10,000は10を4回掛けた数だから)
右下の小さな「10」は底(てい)と呼ばれ、「何を掛けるか」を示します。底が10の対数を常用対数(じょうようたいすう)と呼びます。3級では基本的にこの常用対数を使えれば十分です。
難しそうに見えるけど、対数って要は「10を何回掛けたら、この数になる?」って問いに答えることだけなんだよ。シンプルでしょ?
「掛け算が足し算になる」マジック
対数の本当の魅力は、ここからです。先ほどの数を表で並べてみましょう。
| もとの数 | 対数(底10) |
|---|---|
| 10 | 1 |
| 100 | 2 |
| 1,000 | 3 |
| 10,000 | 4 |
| 100,000 | 5 |
もとの数は10倍、100倍、1000倍...と掛け算で大きくなっていくのに対して、対数は 1, 2, 3, 4, 5 と1ずつ足し算で増えていく。これが対数の最大の特徴です。
言いかえると、「何倍になったか」が「いくつ増えたか」に変わるのが対数の世界です。10倍は対数では「+1」、100倍は「+2」、1000倍は「+3」。掛け算が足し算に翻訳される、と覚えてください。
対数は「掛け算を足し算に変える道具」です。これだけ覚えておけば、対数のセンスは身についたも同然。
身近にある対数尺度
対数は、実は私たちの身近にもたくさん登場しています。
- 地震のマグニチュード:M5とM6では、放出エネルギーが約32倍違う
- 音の大きさ(デシベル):10dBの差で音の強さは10倍違う
- pH(酸性・アルカリ性):pHが1違うと、水素イオン濃度は10倍違う
- 星の等級:1等違うと明るさは約2.5倍違う
これらに共通するのは、扱う数の桁が大きく違うということ。たとえば地震のエネルギーをそのまま並べたら、関東大震災と日常の小さな揺れを同じグラフに描けません。だから人類は、桁の違いを「1ずつの差」に翻訳する対数を発明したのです。
3. 対数変換すると、データの何が見えるのか
対数の基本がわかったところで、本題に入ります。時系列データに対数変換を施すと、どんなメリットがあるのか?──大きく3つの効用があります。
効用1 ─ 桁の違うデータを同じグラフで比較できる
たとえば、こんな2つの会社があったとしましょう。
- 会社A:売上1万円 → 2万円 → 4万円 → 8万円(毎期2倍)
- 会社B:売上100億円 → 200億円 → 400億円 → 800億円(毎期2倍)
両社とも「毎期2倍」という同じペースで成長しています。でも、これを通常の折れ線グラフに描こうとすると、会社Bの線の中で会社Aは横軸に張りついた一本線になってしまい、まったく比較できません。
ここで対数変換の出番です。対数で見ると、両社の売上はどちらも「等間隔の階段状」になり、「成長率の比較」がフェアにできるようになります。絶対額が大きく違う会社や指標を、同じ土俵で比較したいときに、対数は強力な道具になります。
効用2 ─ 指数関数的な成長が「直線」に見える
指数関数的な成長とは、「毎期一定の割合で増える」現象のことです。たとえば毎年5%成長する会社の売上、毎年10%増える人口、感染症の初期拡大などは、すべて指数関数的な動きをします。
これを通常のグラフで長期間プロットすると、初期はほぼ平らで、後半に急激にカーブが立ち上がる形になります。複利貯金のグラフを見たことがある人は、あのカーブを思い出してください。
ところが、縦軸を対数にすると、この同じデータがきれいな直線になります。「毎期一定の割合で増えている」ことが、傾きの一定さで一目でわかるのです。
実務での意味は大きく、たとえば長期の株価チャートやGDPの推移を対数で描くと、成長率がいつ変わったか──傾きが折れた地点──から、経済の節目が読み取れます。
効用3 ─ 「変化の質」が読みやすくなる
通常の折れ線グラフでは、グラフの後半ほど目立つという性質があります。値が大きくなると、同じ%の変動でも振れ幅が大きく見えてしまうからです。
たとえば、株価が100円から110円になるのと、株価が10,000円から11,000円になるのは、どちらも「10%の上昇」です。しかし通常のグラフでは後者のほうが大きな出来事に見えてしまいます。対数グラフでは、両者は同じ高さの上昇として表現されるため、「割合としての変化」が公平に見えるようになるのです。
対数変換は「絶対値の比較」から「変化率(割合)の比較」へ視点を切り替える道具です。長期的な成長や、桁の違うデータを扱うときに、本領を発揮します。
株価の長期チャートとか、ニュースで「対数目盛で見ると...」って表現を見かけたら、これのことだよ! 「割合で比較したい」ときに使う、ってだけ覚えておけばOK。
対数を使うべき場面・使わないほうがよい場面
対数変換は強力ですが、万能ではありません。使うべき場面・使わないほうがよい場面を整理しておきます。
| 場面 | 対数変換の適否 |
|---|---|
| 桁が大きく異なるデータの比較 | 適している |
| 長期間の指数関数的成長を見る | 適している |
| 変化率の一定性を確認したい | 適している |
| 絶対値の差そのものを見せたい | 適さない |
| 0や負の値が含まれるデータ | 適さない(対数が定義できない) |
| 一般読者に直感的に伝えたい | 慎重に(読み手に説明が必要) |
最後の点は特に大事です。対数グラフは、対数を知らない人には誤読されやすい表現方法でもあります。プレゼンや報告書で使うときは、「これは対数目盛です」とひとこと添えるか、聞き手に応じて通常のグラフと使い分けてください。
対数グラフって便利だけど、知らない人には「なんで右肩下がりに見えるのに増えてるの?」って混乱されちゃう。誰に見せるかで、使い分けるのが大人のグラフ術!
まとめ
第1章の最終項目、おつかれさまでした。今回のポイントを整理します。
- 時間軸は等間隔が大原則。欠損があっても時間そのものは飛ばさない
- 対数は「掛け算を足し算に変える道具」。10倍が「+1」、100倍が「+2」
- 対数変換のメリット3つ:(1) 桁の違うデータを比較できる、(2) 指数関数的成長が直線に見える、(3) 変化率の比較がフェアになる
- 対数は万能ではない。0や負の値には使えず、読み手によっては誤解を生むこともある
対数の概念は、最初は誰でも戸惑います。でも、いったん腑に落ちると、ニュースや経済記事の「対数目盛」「指数関数的増加」といった表現が、すっと読めるようになります。第1章で学んだ知識は、ここから先の統計の学習すべての土台になります。
第1章「データの記述と要約」、ここで完了です。 次章からは、データそのものを数値で要約する方法(平均・中央値・分散など)に入っていきます。
時系列グラフ作成上の注意点 確認シート
通常の折れ線グラフと対数目盛のグラフを同じデータで比較できる練習ファイルです。指数関数的なデータが対数化で直線になる様子を、実際にExcelで確認できます。