第1章 1-3 / データサイエンスの世界と行動規範

論理的思考と課題定義

このページで学ぶこと

データ分析の質は、実は「分析する前」の段階でおおよそ決まっています。このページでは、データや事象の重複に気づく力、分析の初動で大まかな構造を把握することの重要性、分析結果の意味合いを正しく言語化する力、そして担当する事業の収益モデルと主要な変数を理解しておくことの大切さを扱います。

いずれも「論理的思考」という言葉でひとくくりにされがちですが、DS検定ではそれぞれが具体的なスキルチェック項目として問われます。ひとつずつ、実務のイメージとともに理解していきましょう。

1. データや事象の「重複」に気づく

論理的思考の基本のひとつに、MECE※1(ミーシー、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)という考え方があります。「モレなく、ダブりなく」と訳されるこの原則のうち、実務で軽視されがちなのが「ダブりなく」、つまりデータや事象の重複に気づくことです。

たとえば、あるECサイトが「新規顧客数」を集計する際に、同一人物が異なるメールアドレスで複数回登録していることに気づかず、実際より多い数字を「新規顧客」として扱ってしまうことがあります。あるいは、複数の集計軸(地域別・商品カテゴリ別など)を単純に足し合わせて全体の合計を出そうとした結果、同じ取引が2つのカテゴリに二重計上されてしまうこともあります。こうした重複は、気づかないまま分析を進めると、施策の効果測定や売上集計そのものを歪めてしまいます。

EXAMPLE ― 重複に気づけないと起きる失敗
  • 同じ顧客が複数の会員IDを持っていることに気づかず、「顧客数が急増した」と誤って報告する
  • 店舗別売上とオンライン売上を単純に合算した際、店舗受け取り注文(オンライン注文かつ店舗売上)を二重計上する
  • アンケート回答者の一部が複数回答していたことに気づかず、意見の分布を誤って解釈する

重複に気づくためには、集計を行う前に「このデータの1行は、何を1件として数えているのか」を明確にする習慣が有効です。顧客IDなのか、注文IDなのか、それとも取引明細の行なのか。単位が曖昧なまま集計を進めると、重複や漏れに気づけないまま数字だけが独り歩きしてしまいます。

POINT

集計・分析の前に、必ず「1件」の定義を確認しましょう。同じ対象が複数の切り口にまたがって重複カウントされていないかを疑う姿勢が、MECEの「ダブりなく」を実践する第一歩です。

さえちゃん
さえ

「あれ、この数字なんか多すぎない?」って違和感を覚えたときこそ、重複を疑うタイミングなんだよね。データの「1件」が何を指すのか、意外と曖昧なままになってること多いから注意!

2. 分析の初動 ― まず大まかな構造をつかむ

分析課題を渡されたとき、いきなり細部のデータに飛びつくのは得策ではありません。与えられた分析課題に対し、初動として様々な情報を収集し、大まかな構造を把握することの重要性を理解しておく必要があります。

たとえば「客単価を上げたい」という課題を渡されたとします。ここでいきなり過去データの回帰分析を始めるのではなく、まずは「客単価はどんな要素の掛け算・足し算で決まっているのか」という構造化※2を行うことが先決です。客単価は「購入点数 × 商品単価」に分解できますし、購入点数はさらに「まとめ買い施策の有無」「レジ前の陳列」などに分解できます。こうして課題を要素に分解し、全体像を俯瞰することで、どこにボトルネックがありそうかの見当をつけてから、初めてデータで検証する順番になります。

EXAMPLE ― 初動での構造把握
  • 「売上を伸ばしたい」→ 売上 = 客数 × 客単価 に分解し、どちらのテコ入れが効果的かを大まかに把握する
  • 「離脱率が高い」という課題を渡されたら、まず離脱までのステップ(登録・利用開始・継続利用)を図に書き出す
  • 業界レポートや競合の公開情報にざっと目を通し、自社の立ち位置の大まかな見当をつけてから詳細分析に入る

この初動の情報収集と構造把握を怠ると、「木を見て森を見ず」の状態で分析を進めてしまい、重要な要因を見落としたり、些末な数字にこだわりすぎたりする危険があります。分析の初期段階では、精緻さよりも「全体としてどんな要素が絡んでいるか」を大まかにつかむことを優先しましょう。

POINT

分析に着手する前に、紙やホワイトボードに課題を要素分解した図を描いてみることをおすすめします。全体構造が見えていれば、どのデータをどの順番で見るべきかの優先順位も自然と決まります。

3. 分析結果の意味合いを正しく言語化する

構造を把握し、データを分析したら、次に必要なのが結果の「意味合い」を言葉にすることです。DS検定では、対象となる事象が通常見受けられる場合において、分析結果の意味合いを正しく言語化できることが求められます。

ここで言う「意味合い」とは、単に数字を読み上げることではありません。「売上が前月比110%だった」という事実の報告に対して、「季節要因を除いても伸びており、先月実施した新規施策の効果が表れている可能性が高い」というように、その数字が持つビジネス上の解釈までを言葉にすることが言語化です。数字と、その数字が何を意味するのかの橋渡しをする作業だと考えてください。

段階 やっていること
事実の記述 数字をそのまま読み上げる 先月の解約率は3.2%だった
比較 基準となる数字と比べる 前年同月の2.1%より1.1ポイント悪化している
意味合いの言語化 ビジネス上の解釈を加える 価格改定を行った顧客層で特に解約が増えており、値上げへの反発が主因と考えられる

通常見受けられる、つまり特に異常のない事象であっても、その水準や動きが「良いのか悪いのか」「何が要因と考えられるのか」を言語化できなければ、分析はただのグラフ作成作業で終わってしまいます。数字を出したら、必ず「これは要するにどういうことか」を1文で説明する習慣をつけましょう。

さえちゃん
さえ

グラフを見せて「以上です」で終わっちゃう人、実はすごく多いんだよね。「つまりこういうことです」の一言を付け加えられるかどうかが、分析者としての腕の見せどころだと思う!

4. 収益モデルと主要な変数を理解する

最後に扱うのは、分析対象となる事業そのものへの理解です。DS検定では、担当する分析プロジェクトにおいて、当該事業の収益モデルと主要な変数を理解していることが求められます。どれほど統計や機械学習の技術に長けていても、その事業がどうやって収益を生み出しているかを理解していなければ、分析結果を正しく解釈できません。

収益モデル※3とは、事業がどのような仕組みでお金を得ているかの構造のことです。たとえば、月額課金制のサブスクリプション型ビジネスであれば、収益は「会員数 × 継続期間 × 月額料金」に大きく左右されますし、広告収益がメインのメディアであれば、「ページビュー数 × 広告単価」が主要な変数になります。同じ「売上を上げたい」という課題でも、収益モデルが違えば、着目すべき変数もまったく異なります。

EXAMPLE ― 収益モデルによる着眼点の違い
  • サブスク型サービス:解約率(チャーンレート)の改善が収益にレバレッジを持つため優先度が高い
  • 広告モデルのメディア:ページビューと滞在時間が収益に直結するため、コンテンツの回遊率が重要な変数になる
  • 実店舗の小売業:客数と客単価、在庫回転率が収益を左右する主要な変数になる

分析プロジェクトにアサインされたら、いきなりデータを触る前に、「この事業はどうやって儲けているのか」「その中で自分が分析しようとしている指標は、どの変数に対応するのか」を確認する習慣を持ちましょう。これは前節で扱った「大まかな構造把握」とも密接に関連しており、事業理解が浅いままの分析は、的外れな結論に着地しがちです。

POINT

分析を始める前に、担当事業の収益モデル図(お金がどこから入り、何が変数として効いているか)を自分の言葉で説明できるかを確認しましょう。説明できないなら、分析より先に事業理解を深めるべきタイミングです。

さえちゃん
さえ

「木を見て森を見ず」にならないためには、そもそも自分がいる森がどんな形をしているかを知る必要があるんだよね。事業理解は地味だけど、分析の精度を大きく左右するよ!

まとめ

ここまで、DS検定の出題範囲である「行動規範/論理的思考」の内容を見てきました。データに触れる前後の「考える力」が、分析の質を大きく左右します。最後に振り返っておきましょう。

  1. 重複への気づき ― データや事象の「ダブり」に気づき、MECEな整理を意識する
  2. 初動での構造把握 ― 分析に着手する前に、様々な情報を集めて大まかな構造をつかむ
  3. 結果の言語化 ― 分析結果が持つビジネス上の意味合いを、自分の言葉で正しく表現する
  4. 収益モデルの理解 ― 担当する事業がどのように収益を生み、どんな変数が効いているかを理解する

次のレッスンでは、「データを正しく読む力」を扱います。集めたデータや目にした数字を、鵜呑みにせず正しく解釈するための視点を見ていきましょう。

脚注 ─ 用語解説
  1. MECE(ミーシー) … Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略。「モレなく、ダブりなく」物事を分類・整理する考え方のこと。論理的思考の基本原則のひとつ。
  2. 構造化 … 複雑な事象や課題を、要素に分解して関係性を整理し、全体像を把握しやすくすること。
  3. 収益モデル … 事業がどのような仕組み・構造でお金(収益)を生み出しているかを表すもの。ビジネスモデルの中核をなす要素。