時間軸は戻ります。高校3年生。夏目漱石の「こころ」が大嫌いな理由はこれ。

この物語のパターンに遭遇した人しか、その失恋の辛さはわからないかなとも思います。どちらにせよ失恋というものは、心に穴がぽっかり空くものです。

この歳になると、結婚という契約を結んでいないのなら、大した障害ではないんですけどね。

過去の記憶 Case 7:激しい失恋

その日は、失恋にふさわしい雨の日でした。

その事実を知ったとき、あまりにものショックで、当時やっていたスポーツ、水泳の練習ができませんでした。家を出たのはいいけれでも、スポーツクラブまで行くのが嫌になり(理由は大泣きしているから、後輩にそんな姿を見せられなかった)、練習時間中、近所の住宅街をさまよい歩いていたことを覚えています。ああ、トラックに轢かれて死んでしまいたい。初めての自殺願望でしたでしょうか?

好きだった女が、相談に乗ってくれた男のことが好きだったとは。

泣いても泣いても苦しくて、しゃくりあげて泣いたのは子どもの頃以来でしたから、その失恋がすごい悔しかったんだろうと思います。その男とは同じ自由形のライバルでもあり、いつだって東京都では最終組のメンバー同士です。一気に差をつけられたことによる悔しさもあります。

全て負けた。

失恋による悲しさよりも、何もかも勝てなかったことによる挫折の涙でもありました。涙を流して泣いたのは、後にも先にもこの高校生のときが初めてでした。嫉妬心もなく、純粋な恋愛だったので、気持ちいい思い出といえば気持ちいい思い出です。唯一の純愛だったなと。

この記憶には、未来があります。

もしあのとき、現在の未来が見えたなら、立ち直りも早かったでしょう。その子とは社会人になってから、いまでもいい友達です。時間軸を超えて、それだけ当時好きだったことを伝え直した機会がありました。

彼女から「ありがとう」という言葉をもらったとき、青春時代はいい恋をしたなと思いましたね。若さゆえか、まだこのときは「からかいの声」がなかった時期です。

過去の記憶 Case 8:酒 – 神様は試練をお与えになる

時間軸は、女友達の自殺後に戻ります。

そこからの恋愛というものは、このような純愛レベルの恋愛ができなくなっていました。その自殺の一件後、職場が変わりました。環境が変わり、業務も変わり、給料も変わり……仕事によるストレスから、やけ酒を飲むことが多くなってきたからです。

サーバ室で、パワハラとも呼べる説教時間を受け、上司の声が耳に残るようになりました。それを払拭するために、六本木のクラブ(うるさいところのクラブ)に行ったり、表参道のバーでは吐くまで飲むことが毎週末の出来事でした。

からかいの声が聴こえるようになったのも、ここからかと思います。

転職した学校法人というものは、無尽蔵にお金があるもので、12月を生きているだけで100万円が入ってくるのですから、お金は必要以上にありました。

とにかく飲み会を開いては、女性を探し、そして酔いに任せて、いろいろなことがあった時期でもあります。一番遊んだ時期といえば、この時期でしょう。モテ期の残り香を楽しむように、仲間と思っていた人たちは、次々と姿を消していきました。

そして最後の残り香、27歳のとき初めて女性に告白をしました。

時期はクリスマス・イブです。けれども、その翌日にとある既婚者と会う約束がありました。デートとかそういうのではなく、単なる別件で。ただ、時間帯が時間帯だったので、そのあと飲みに行ったのがまずかった。酒癖の悪い2人、酒を飲んでしまったら、もうとまらない。

真面目な人間ゆえに、ちょっとした反動で足枷を外されたとき、獲物を今捕らえないと死んでしまう、火事場の馬鹿力となった行動力を発揮させます。嫉妬に続く次なる感情。手に入らないものが手に入りそうなとき、男は性欲のまま従うことを覚えました。

「すっごい真面目な人っぽいからさ、急に崩れないよう気をつけてね」

嬢の言葉が思い出されます。冒頭にも記載した、過去に1回告白で成功し、2日後にキャンセルをした事例がこの記憶です。翌日の精神状態では、とてもではないのですがその女の子とまともなお付き合いができるとは思えませんでしたから。

この2ヶ月後、兄の結婚式でした。キリストの顔を見るのが苦しかった。それを期に、恋愛はもうすべきではないと、一生独身でいようと本気で思った瞬間でした。